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『落研ファイブっ』(41)「乾杯はビワの葉茶」

〔松〕「本当に三元さんげんさんにそっくりだ」
〔飛〕「亀の上に鶴が乗ってる」
 味の芝浜デビュー組の一年生二人を、信楽焼しがらきやきたぬき鶴亀つるかめ灯篭とうろうが出迎える。

〔三〕「外食禁止令が出ちまってよ」
 えさの優待券を使ってボーリング場でお誕生日会を行うはずが、三元の祖母みつると母の強硬な反対の結果、味の芝浜でのお誕生日会と相成ったのである。

〔み〕「いらっしゃい。この子たちは初めてだね」
〔三〕「松田君と飛島君。群馬の子と丸飛の御曹司おんぞうし
〔み〕「あんたが群馬の子かい。こりゃまた飛んだ助六すけろくがおいでなすったよ」
〔三〕「助六ってのは色男の代名詞だよ」
 うちのばあちゃんは良い男に目が無くってねと三元さんげんはぼやく。

〔み〕「丸飛のぼっちゃんまで。ささ入って入って。まあ久しぶりじゃないの五郎ちゃん。見ないうちに随分背が高くなったんじゃないのかい」
〔仏〕「成長期ですから」
〔み〕「相変わらず最高に良い男だねえ。時坊も爪の垢を煎じて飲ませてもらっちゃどうだい」
 女子地引網じょしじびきあみスマイルを繰り出した仏像に、みつるがきゃっきゃとはしゃいだ。

〔三〕「ばあちゃんの血が流れてるんでい。助六って顔になりようがねえだろ」
〔み〕「体形ぐらいなら真似出来るだろ。一時の辛抱しんぼうだよ」
 全く人の気も知らねえでとぶつくさ言いながら、三元さんげんは健康サンダルを脱いで座敷に上がった。

※※※

 床の間の真ん前のど真ん中に三元さんげん、その両隣に飛島と餌を並べると、シャモは早速三人にとんがり帽子を被らせた。
〔シ〕「一枚撮るよハイ撮った」
〔三〕「何で撮るよって言う前に撮ってんだよ、フェイントか」
〔餌〕「何で金目鯛きんめだいの尾頭付きと一緒に撮ろうとするんですか」
 早速写真を確認した三元と餌から物言いがつく。

〔シ〕「だって味の芝浜の看板料理と言ったら金目の煮つけだろ」
〔飛〕「鯛より真っ赤で、いかにも縁起が良さそうです」
〔仏〕「でも今日は煮つけじゃねえのな」
〔三〕「お誕生日会を外で出来なかった事情を察してよ。こいつは金目鯛の酒蒸し。それでこれが俺専用薬味」
 三元はどんより顔で調味料入れを見る。

〔餌〕「まさか僕らも減塩食」
〔シ〕「そいつはキツイ。まさかあのマズイ汁も」
〔三〕「ばあちゃん次第だ」
 噂をすれば何とやらで、みつるが座敷に顔を出した。

〔み〕「これから料理を運ぶからどんどん食べな。今日は特別にケーキも頼んだ」
〔三〕「ケーキ!? 良いのっ」
〔み〕「その代わり揚げ物は駄目だよ。時坊にはところてんとおからを出してやるから我慢おし」
 みつるは三元さんげんの悲痛な叫び声に、そ知らぬふりをして店へと戻った。

※※※


〔三〕「ビワの葉茶で乾杯ってしまらねえよ。せっかく皆来てくれてるんだから、コーラかジュースでも出してもらうか」
 ピッチャーにそそがれた茶色の液体を見ながら、三元さんげんがしかめ面をした。

〔餌〕「我がまま言うと食後のケーキが消滅しかねません」
〔シ〕「俺らビワの葉茶でもどくだみ茶でも大丈夫よ。あの激マズスープじゃなけりゃ良い」
〔飛〕「ビワの葉茶って何ですか」
 飛島がピッチャーを珍しそうに見た。

〔三〕「果物のビワの葉っぱを干すとお茶になるんだよ。ばあちゃんがビワの葉やらドクダミでお茶や入浴剤を作って俺に強制するんだよ。脂肪が減るってうるさくて」
〔仏〕「愛されてるな」
〔三〕「愛が重い」
 ため息を付きながら、三元さんげんはビワの葉茶をコップに注いだ。

〔シ〕「それにしても、みつるばあちゃんって『ゆんゆん』大好きだよな」〔三〕「そうなんだよ。ばあちゃんの『ゆんゆん』友達なんか、方位学や奇門遁甲きもんとんこうに凝っちゃって大変だよ。方違かたたがえなんて今どき本当にやってる人がいるとは思わなかった」
〔松〕「平安時代の話じゃなくて」
 ビワの葉茶をそそいでいた松尾の手元が狂った。

〔三〕「今だよ今。『ゆんゆん』の年金受給層ねんきんじゅきゅうそうへの影響力はデカいぞ」
 『ゆんゆん』なる雑誌の存在すら知らなかった松尾と飛島は、未知なる世界に目を丸くした。

 ※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
(2023/8/10 改稿  2023/11/23 一部削除)

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