『落研ファイブっ』(68)「失踪」
〔三〕「はあああっ?! シャモが失踪?!」
がばっと起きるも、やっぱり夢かと言いながらベッドに崩れ落ちる三元。その巨体をみつるは電話口まで先導した。
〔三〕「こちらにはあの後来ていません。部活の朝練は特にしていませんが。スマホは部屋に置きっぱなしですか」
三元は途方にくれた顔で電話を切ると、スマホが部屋に置きっぱなしなら手の打ちようがないよとみつるにこぼした。
〔み〕「昨日だってあの子はおかしかったよ。鬼の形相で『ゆんゆん』を引っ張り出してさ」
その言葉に、三元ははっと息を呑んだ。
〔三〕「お祓いや悪霊退散の祈願をするなら、どこがおすすめ」
〔み〕「そりゃここいらでお祓いに悪霊退散なら、川崎のお大師様に大山、寒川神社辺りが有名じゃないのかい。それがどうしたってんだ」
〔三〕「そのキーホルダーってどこで買ったの」
〔み〕「これはもらいものだよ」
梵字の根付が付いたキーホルダーを、みつるはしげしげと見た。
〔み〕「これをくれた人は随分前に根の国の人(死者)になっちまった。ずいぶん小難しい顔して『ゆんゆん』をめくってたが、それがあの子がいなくなっちまったのと関係あるのかい」
〔三〕「かもしれない。でも、多分早く家を出ただけで普通に学校に来るんじゃないのか」
〔み〕「だと良いがね。そうそう、これは勢至菩薩の字だって言われたよ」
〔三〕「シャモのは阿弥陀如来の字なんだって。どこかに行っちゃったなら神社じゃなくて、お寺かな」
〔み〕「厄除けと悪霊退散で有名かつ、美濃屋から行きやすい寺ってなると、確かに川崎のお大師様かもしれないね。でもそんなに慌てふためいて護摩炊きに行くような事でもあったのかえ」
〔三〕「何だか色々あるみたいだよ」
どこまで話して良いやらわからず、三元はそれきり言葉を濁した。
〈木曜日 餌/加奈 通学時〉
新子安駅の改札前で急報を受けた餌は、隣で大あくびをする加奈にラインを見せた。
〔餌〕「多分大事じゃ無いとは思うんだけど」
〔加〕「まじ受けるかーくん家出だって。しほりと駆け落ちしたか」
超おもれえ、しほりどうしてんだろと言いながら加奈はメッセージをしほりに送った。
〔加〕「リプ早っ! やっぱ変だって。しほり既読スルーの常連だったのに。スタンプまで多用してキモイっ。こんなのしほりじゃねえよ」
〔餌〕「シャモさんがスマホを家に置いたまま親の知らぬ間に出て行ったらしいんだけど、どこにいるか知ってるかって聞いてみてください」
〔加〕「それってかーくんがしほりと駆け落ちしてたら、本当の事言わないに決まってんじゃん」
〔餌〕「そもそもシャモさんは何でかーくんになったんですか」
〔加〕「しほりがそう呼ぶからだよ」
〔餌〕「『かーくん』っ。似合わねえっ」
ホームで声を忍ばせながら笑った餌は、加奈のスマホを覗き込んだ。
〔加〕「これでどうだ」
〔餌〕「この質問でしほりさんがシャモさんと一緒に行動してるかどうかは分かる」
〔加〕「あれ、しほり普通に学校着いたって言ってる。じゃ、かーくんの事はマジで何も知らないかも」
横浜駅で加奈と別れると、餌はじっとスマホに目を落とした。
〈木曜日HR前〉
二年四組の教室に、三元が珍しく顔を出した。
〔三〕「結局シャモはまだ学校に来てねえんだよ」
〔仏〕「どっかでぶらぶらしてるだけだろ」
心配顔の三元とは対照的に、仏像は余りシャモを気にかけていない様子である。
〔三〕「そうだ松田君がシャモのデートを目撃したんだよね。一年七組に行くか」
〔仏〕「松尾には俺から聞いてみたんだけど。あれはちゃんとシャモ本人から話させるべきだわ」
仏像は完全な塩対応モードである。
〔三〕「余計に気になるって」
〔仏〕「戻れよ。遅刻扱いになるぞ」
教卓前の時計を指さすと、三元は重たい体をゆさゆさと振りつつ教室を後にした。
〈木曜日午前三時五十分 シャモ宅〉
生霊退散、呪い、マインドコントロールなどありとあらゆる検索ワードをぶち込んで検索結果を見ているうちに、窓の外がわずかに明るくなってきた。
〔シ〕「マジで土曜日親父も連れて三人で来るのかよ。オワタ」
シャモのような寝ぐせもそのままにパーカーにチノパン姿でコンビニへと出かけたシャモは、日の出の気配をかすかに示す東の空を見上げる。
徹夜明けで回らない頭を抱えながらふらふらと歩いてコンビニに向かうと、見慣れた顔が暇そうにレジ前に立っていた。
〔シ〕「平川さん、久しぶりっす。暇そうっすね」
徹夜明けで回らない頭を抱えながらふらふらと歩いてコンビニに向かうと、見慣れた顔が暇そうにレジ前に立っていた。
〔平〕「ウルせえよ。今日学校じゃねえの」
〔シ〕「眠れなかったっす」
〔平〕「どうしたよ。また合コン失敗」
その言葉にシャモはあああああと頭を抱えてレジカウンターに突っ伏す。
〔平〕「マジ超受ける。話聞いてやるからもう十分待ってろや」
シャモは回らない頭でチーズドッグをかじりながら、エナジードリンクを飲んだ。
※※※
〔平〕「お待たせ。今日ぐらい学校サボっちゃえって。俺なんてほぼサボったけど、ちゃんと高校卒業して生きてっぞ」
ご自慢のバイクにシャモを積むと、平川は第一京浜から国道一号へと一路西を目指した。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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