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『落研ファイブっ』第二ピリオド(14)「本番」

〔樫〕「おはようございます『草サッカー同好会』の皆様」
 会場についた仏像とシャモを出迎えたのは意外な顔であった。
〔シ〕「何だよその改造特攻服。昭和のヤンキーか」
 集合場所でぶらぶらする多良橋たらはしの隣で、盛夏用応援服せいかようおうえんふく(袖なし白特攻服)を着用した応援部長の樫村かしむらが三十度の礼をした。
 いつも樫村と共にいる二人の応援部員は、影のように付き従っている。

〔仏〕「あれ、どうしたの。奥座敷おくざしきはこの試合にエントリーしていないだろ」
〔樫〕「本日は皆様にご恩返しをすべく参りました。誠心誠意エールを送らせていただきます」
 昭和のヤンキールックに似つかわしくない態度でこうべを垂れると、樫村かしむらは大きく息を吸った。

〔樫〕「それでは、一並ひとなみ高校草サッカー同好会『落研ファイブっ』の勝利を祈願きがんしてええっ」
 盛夏用応援服(袖なし白特攻服)で隊列を組んだ三人は、会場にたむろする出場者たちを振り向かせる大声を上げた。

〔樫〕「八景はっけいのおおおお 風のもとおおおおおお」
 背のひょろ高い応援部員が手持ちの太鼓たいこを打ち鳴らす。

〔樫〕「ゲットゴールだ 落研ファイブっううううう」
〔応〕「ゲットゴールだ 落研ファイブっううううう」
〔応・樫〕「ゲット・ゲット・ゴールっ。ゲット・ゲット・ゴールっ」
 その様を、放送部長の青柳あおやぎめるように撮っていた。


〔多〕「本日は応援部が助っ人として控えに入る」
 耳目じもくを集めるエールの後、多良橋たらはしがおごそかに告げる。
 
〔シ〕「青柳あおやぎ君、放送コンテストはどうなったよ」
〔青〕「例の『地域の皆さんと力を合わせて荒れ地再生』をメインにいどんだのですが、やらせ臭とやっつけ仕事を一発で見抜かれまして」
 そんな事だろうと思ったと、仏像がふっと笑った。

〔三〕「おっさんみたいな応援部どもを舐め撮りしてどうする気だよ。グラビアじゃねえんだぞ」
〔餌〕「なめたけ監督をリスペクトしすぎ」
〔青〕「ローアングルあおり撮りのたくみの技を盗もうと」
 青柳あおやぎはすっかりエゾウコギなめ茸監督の弟子気取りである。

〔多〕「では改めて。Morning! 素晴らしいビーチサッカー日和びよりだな」
 仏像の胸中そのままに分厚く垂れこめた灰色の雲の下、赤いうどん粉病Tシャツに身を包んだ一同は輪になって多良橋たらはしのあいさつを聞いている。

〔多〕「今日のキャプテンマークは、服部が巻いてくれ」
 一瞬驚いた顔をした服部であったが、全員が納得の表情でうなずくと服部はキャプテンマークを受け取った。

〔多〕「抽選ちゅうせんが午前八時。第一試合は午前八時五十分からの予定だ。ただし気象状況きしょうじょうきょうによってスケジュールは大幅にずれる可能性がある」
 多良橋たらはしは競技関係者に配られた当日の注意に目をやった。

〔多〕「今から提出するメンバー表以外のメンバーは、ベンチでの観戦は不可。競技関係者席での観戦となる。三元さんげん、悪いが外れてくれ」
〔三〕「むしろありがたい。ゆっくり観戦席からカメラを回しますよ」

〔飛〕「僕も外れた方が」
〔多〕「いや、飛島君は戦術分析官せんじゅつぶんせきかん枠で記載するから。里見さとみ君も悪いが外れてくれ。駅伝に出すつもりだから、試合は勘弁かんべんしてくれだと」
 陸上部の駅伝メンバーに入っていると知った里見さとみの顔がぱっと輝いた。

〔多〕「井上。今井。まだルールの理解もおぼつかないからスタメンにはしないが、勝ち進んでいけば出す局面もあるだろう。残ってくれ。それから応援部、頼んだぞ」

〔多〕「とにかく元気で完全燃焼しよう。『落研ファイブっ』第一期の締めくくりにして、新生『落研ファイブっ』の出初式でぞめしきだ。青柳あおやぎ君、写真撮って」
〔三〕「えっ、メーク無しで撮るの」

 麺棒眼鏡めんぼうめがねによる『しゅっとするメーク』無しで撮られたくないとごねる三元さんげんをなだめつつ、青柳あおやぎは手早く集合写真を撮った。

抽選後ちゅうせんご

〔うい〕「れんちゃん! れんちゃん! れんちゃんの夢が叶ったら!」
 『落研ファイブっ』の初戦相手は、日吉ひよし大学関連施設を拠点きょてんに活動するインカレサークル『かしわ台コケッコー』である。

 第一試合の相手を聞いた本郷大学ほんごうだいがく文科二類の井原いのはられんは、顔を真っ赤に染め上げるといずこともなく走り去った。

〔大〕「お手柔らかにお願いします。それから、政木まさき君はベンチで温存してください」
 『かしわ台コケッコー』のキャプテン・大和仁やまとひとしは対戦相手である『落研ファイブっ』の多良橋たらはしと服部にあいさつをした。

〔多〕「まさか君達と当たるとはね。それから君が一並ひとなみ高OBであっても、敵チームの頼みに乗る義理はないよ」

〔大〕「うちのメンバーに熱狂的な『ゴー君』ファンがおりまして。この蒸し暑さですし、接触プレーなんてしたら熱中症になる前に出血多量で倒れかねないと言いますか」

〔多〕「昭和のラブコメじゃないんだから」
〔大〕「笑い事じゃないんですって」
 大和やまとの危機感に取り合わず、多良橋たらはしは苦笑しながら大和の元を去った。

※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。


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