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薬膳空想物語『七十二候の食卓』

雨水
霞始靆 ~かすみはじめてたなびく~  五皿目


『佐保姫の糸染め掛くる青柳を吹きな乱りそ春の山風』(平兼盛 詩花和歌集)
~佐保姫が染めた糸を掛けた柳の枝を吹き乱さないでおくれ春の山風よ~

陰陽五行説では春は東の方角にあたりその場所に宿る神霊佐保山 佐保姫(※1)を春の女神と呼ぶようになった。
そして、白く柔らかな衣を纏う佐保姫と、山に霞かかる美しい風景を春霞という言葉になぞられたのではないだろうか。
春を感じ始めると、山から上がってくる蒸気さえもこうして物語が潜んでいるかと思うと心躍る。

そんな美しい兆しを感じる春だけど、心も揺らめく事も多くなる。
佐保姫が柳の枝に掛けた糸が山風で乱れるかのように、春は巻き上げる強い風が吹きやすい。

からだの中に「風邪」(※2)が入り込み、さらには環境や生活の変化もあり
ストレスを感じやすくなる季節でもあるのです。さらに「肝」(※3)が弱りやすくなる。

三寒四温を繰り返し、まだちょっとコートも脱ぎきれないから
この時期はからだを温めて、胃腸を労り、ストレスを貯めないことを特に心掛けたい。

春はストレスを緩和してくれる香りのいい野菜がいい。
そして酸っぱいものも。

このところ、少し胃腸の調子が思わしくないし、たまに来る低気圧で朝から頭痛がひどい。
そんな時は鍋でひとつ作っておけば安心の野菜たっぷりスープを作り置きしておけば1日それでカバーできる。

鶏手羽元と香味野菜のスープを作る。

手羽元は骨に沿って塩を軽く振っておく。
にんにくは皮をとってつぶす。生姜は皮ごとスライスして包丁でつぶしておく。
玉ねぎ、セロリは食べやすい大きさに切ってすべての材料を鍋に放りこむ。
手羽元がほろほろと崩れるくらいまで煮込んだら少しの塩を加える。
できればここはミネラル豊富で甘みを感じやすい自然塩を使ってほしい。
味付けは本当にシンプルに。鶏からもいい出汁が出ているし十分だ。
食べる直前にレモンをひと絞りしてかけてもいい。
爽やかな酸味が気持ちをすっきりさせてくれる。
こんな手間いらずでおいしくて滋養たっぷりの一皿が出来上がった。

そういえば、佐保姫を詠った時代の女性達はストレスをどのように発散していたのだろうか。同じ女性として当時の時代に想いを馳せる。



※1 佐保姫:佐保山は奈良の都に東方にあり方角を四季に配すれば春にあたる事から春を司る女神といわれる。
※2 風邪:ふうじゃとは六淫と呼ばれる病気の原因のひとつ。体内を縦横無尽に走り回る性質がある邪気のこと。特に頭痛やめまいなど上半身の症状と密接な関係があります。特に春に症状が活発になると言われています。

鶏肉:食味/甘  食性/温  帰経/脾・胃
セロリ:食味/甘・苦  食性/涼  帰経/肝・肺・膀胱


玉ねぎ:食味/甘・辛  食性/温  帰経/肺・胃・肝
にんにく:食味/辛  食性/温  帰経/脾・胃・肺   
生姜:食味/辛  食性/温  帰経/脾・胃・肺  
レモン:食味/酸・甘  食性/平  帰経/肺・胃


●食味:酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味([かんみ]塩からい味)を五つに分けたもの(五味ともいう)
●食性:熱性・温性・平性・涼性・寒性と食物の性質を五つに分類したもの(五性ともいう)
●帰経:生薬や食材が身体のどの部分に影響があるかを示したもの。ここでいう五臓は「肝・心・脾・肺・腎」の事だが、単に臓器の働きにとどまらず精神的な要素も含まれ、ひとつひとつの意味は広義にわたる。

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