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坂本 百々
2020年5月15日 08:03
乾いた音。初めて聞いた音。焼ける匂い。知ってる臭いだ。目の前が霞む。揺れる。何があったのか分からない。わかりたくも無い。崩れる身体に、力が入らない。「なんで......」吐き出す様に吐いた言葉は、死後の一声の様だった。俺は逃げ出せなかった。ただただその場で、彼女を見ていた。そのうち、人だかりができた。警察もやってきた。何かを言われた。だが、何かを言う気になれ
2020年5月14日 07:48
「ん......」朝日に起こされた。と、いうよりは違和感に起こされた。狭い車内の中、隣で寝ているはずの優奈がいない。「ん?」慌てて体を起こす。荷物はそのままだった。車内から飛び出して周りを見渡す。海岸沿いの高い目標のしたに人影が見えた。長い髪を風に遊ばせる姿。優奈だ。「どうしたんだ?こんな所で」あがる息を抑えながら声を掛ける。海を見たままの優奈は、日の出の余韻を楽しむ
2020年5月13日 07:53
海岸沿いの防波堤の近く。外は真っ暗で小さな明かりがポツポツ見えた。「ほら、着いたぞ」横で眠る優奈を揺さぶり起こす。「うん」返事をしたが動く気配はない。「出ないのか?」「外暗いし」そう言い、毛布の中に逃げ込んだ。しょうがない。と座席を倒し、俺も寝ることにした。これで終わる。何もかもが終わる。きっと......終わったとしたら、次はなんだ?何が始まるのだろ
2020年5月11日 07:52
「なんか、不気味だよね」「何がだ?」優奈は真っ直ぐに指を刺す。田んぼ道の電線の上、大量のガラスが留まっていた。「不吉なことがあるんじゃないかなぁ」と心配する優香に「心配しすぎだろ」と返した。考えないわけではない。が、不安を持ちすぎるのも良くない。俺はとにかく単純に考えることにした。「田んぼを耕した後だから、こんだけ沢山いるんだろうよ。別に、襲ってくるわけじゃないんだから心配
2020年5月10日 11:25
「雨だね」「あぁ、雨だな」バケツをひっくり返した。とはこの事を言うのだろう。数メートル先も見えなくなるほどの雨に、仕方なく路肩に車を止めて外を眺めていた。ボロい箱バンの屋根を叩く音が響く。「壊れたりしない?」「多分な」歯切れの悪い会話をしながら外を眺めた。一体どれくらいここにいるのだろう。山の天気は変わりやすい。とは言うが、ここまで劇的に変えられてはどうしようもない。「
2020年5月8日 08:18
県を跨いで少しした頃。俺達の腹もだが、車も腹が減る。近場に見えた赤い看板のガソリンスタンドに入った。「レギュラー満タンで」70歳くらいの男性が出迎えてきた。腰は曲がっているが、元気の良い声と笑顔は高齢者と呼ぶに相応しくない。「こっからどう行こうか」「あのさぁ」「うん?どうした?」優奈は少し、申し訳なさそうに声をかけてきた。「私。ここに行きたいの」そう言って、ハンドサ
2020年5月7日 07:41
蓋を開ければなんてことは無かった。いや、何もしなかった。「はぁ......」「どうしたの?ハヤト君」「いや、安堵のため息だよ」つくづく、自分は不幸だと感じた。訳の分からないままこうして働かされ、弄ばれているのだから「そろそろ県境だなぁ」「道の駅寄ってかない?」「一応俺達逃走中なんですが?」「背に腹は変えられない。っていうじゃない?」優奈はまたわけのわからない事を言った
2020年5月6日 12:51
身体がぎこちなく固まる。双方、別の向きに眠る。むしろ、コレが限界だ。バクバクと跳ねる心臓。顔を見たらやばい。身体が触れてもやばい。てか、いい匂いするのがやばい。どうしてこうなった?どうしてこうなった!!確かにイエスとは言った。言ったが!!だが、この状況はなんだ?いや、悪くはないのだが、心臓に悪い。普通ならご褒美だ!!なんて言えるが、生憎今は状況では何も嬉しくないワケで。「ねぇ.
2020年5月5日 10:30
長湯に浸った後、俺は部屋に戻った。ダブルベッドで眠る優奈を見て、俺は車内から持ってきた毛布を手にし、ソファーで眠ることにした。ベッドほどじゃないが、柔らかい感触で手すりがちょうどいい枕がわりになる。まぁ、フルフラットの車内よりは10倍マシだ。「ねぇ」目を閉じたところで、優奈が声をかけてきた。「ん?どうした?」「あのさぁ......」出し渋る優奈。一体何を言われるんだ?
2020年5月4日 09:52
シャワーの音が部屋に響く。滴る水が外部の音をかき消す。悩みふける頭の中のモヤのような湯気をぼんやり見つめていた。「わからねぇ」誰もいない。誰にも聞こえない。だからこそ口走った本当の気持ち。呆れるほど単純だけど、呆れるほど複雑だった。ただただ楽観的にこなしていたからこそ、楽観的になれなくなった瞬間。これから先を見つけられなくなった。疲労だろう。この考え方。仮にも逃走中だ。
2020年5月3日 10:23
さて、どうしたものだろう。一人になると、冷静に考えていける。もしもこのまま北へ行って、その先は一体何があるのだろうか。目的が達成したら、はい終わり。で元の生活なのだろうか?いいや。きっと違うだろう。終わったからと言って、俺の人生はこのまま悪い方向にしか進まない気がする。だって、解決する気がしないじゃん。一から言えば、なんで捕まっていたのかも分からない。彼女の、優奈の目的は?
2020年5月2日 19:47
どうしてこうなった。どうしてこうなった!!割と想像通りのピンク色の部屋で、さらにダブルベッド。大型テレビからは妙に落ち着いた音楽が流れていた。「カチカチじゃん」「当たり前だろ!!初めてなんだから!!」あはは......と笑う優奈。流石に慣れた風だった。「ほら、食べよ」「お前なぁ」麓のコンビニで買った弁当を広げ、いち早く食べ始めた優奈。「図太いなぁ」「そうかなぁ。
2020年5月1日 09:25
どうしたものか。あれから一週間が経った。事件になった感じはしないが、替わりに緊迫感が薄れていった。良いことか悪いことか。といえば悪い。なぜかと言うと、緊張感が薄れた結果。逃走中だという意識が薄れていった。むしろ、逃げなくても良いんじゃないのだろうか。なぜ逃げてるんだろうか。そんな気持ちが緊張感を消していく。この緊張感がなくなった時、きっと大きなトラブルになるはずだ。「
2020年4月30日 17:56
走りながら考えること。山道を走りながら、遠くに目をやった。空は綺麗で、雲も綺麗な形をしていた。不意に、息苦しさを感じた俺はちょっとだけ提案をした。「展望台に行ってみないか?」まぁ、逃走中の俺らが、どの面でこんな呑気な事を言っているのだろう。と思うだろうが、急がば回れ。という言葉を信じたかっただけだ。「まぁ、いいけど」と、賛同してくれた優奈。少し気が緩んだ顔をした。道沿い