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北へ......

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北へ....のまとめ
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北へ......(終)

乾いた音。
初めて聞いた音。

焼ける匂い。
知ってる臭いだ。

目の前が霞む。揺れる。
何があったのか分からない。わかりたくも無い。
崩れる身体に、力が入らない。

「なんで......」

吐き出す様に吐いた言葉は、死後の一声の様だった。

俺は逃げ出せなかった。
ただただその場で、彼女を見ていた。

そのうち、人だかりができた。
警察もやってきた。
何かを言われた。
だが、何かを言う気になれ

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北へ...... 16

「ん......」

朝日に起こされた。と、いうよりは違和感に起こされた。
狭い車内の中、隣で寝ているはずの優奈がいない。

「ん?」

慌てて体を起こす。荷物はそのままだった。
車内から飛び出して周りを見渡す。
海岸沿いの高い目標のしたに人影が見えた。
長い髪を風に遊ばせる姿。優奈だ。

「どうしたんだ?こんな所で」

あがる息を抑えながら声を掛ける。
海を見たままの優奈は、日の出の余韻を楽しむ

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北へ...... 15

海岸沿いの防波堤の近く。
外は真っ暗で小さな明かりがポツポツ見えた。

「ほら、着いたぞ」

横で眠る優奈を揺さぶり起こす。

「うん」

返事をしたが動く気配はない。

「出ないのか?」
「外暗いし」

そう言い、毛布の中に逃げ込んだ。
しょうがない。と座席を倒し、俺も寝ることにした。

これで終わる。
何もかもが終わる。

きっと......

終わったとしたら、次はなんだ?
何が始まるのだろ

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北へ...... 14

「なんか、不気味だよね」
「何がだ?」

優奈は真っ直ぐに指を刺す。
田んぼ道の電線の上、大量のガラスが留まっていた。

「不吉なことがあるんじゃないかなぁ」

と心配する優香に「心配しすぎだろ」と返した。
考えないわけではない。が、不安を持ちすぎるのも良くない。
俺はとにかく単純に考えることにした。

「田んぼを耕した後だから、こんだけ沢山いるんだろうよ。別に、襲ってくるわけじゃないんだから心配

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北へ...... 13

「雨だね」
「あぁ、雨だな」

バケツをひっくり返した。とはこの事を言うのだろう。
数メートル先も見えなくなるほどの雨に、仕方なく路肩に車を止めて外を眺めていた。
ボロい箱バンの屋根を叩く音が響く。

「壊れたりしない?」
「多分な」

歯切れの悪い会話をしながら外を眺めた。
一体どれくらいここにいるのだろう。
山の天気は変わりやすい。とは言うが、ここまで劇的に変えられてはどうしようもない。

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北へ...... 12

県を跨いで少しした頃。
俺達の腹もだが、車も腹が減る。
近場に見えた赤い看板のガソリンスタンドに入った。

「レギュラー満タンで」

70歳くらいの男性が出迎えてきた。腰は曲がっているが、元気の良い声と笑顔は高齢者と呼ぶに相応しくない。

「こっからどう行こうか」
「あのさぁ」
「うん?どうした?」

優奈は少し、申し訳なさそうに声をかけてきた。

「私。ここに行きたいの」

そう言って、ハンドサ

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北へ...... 11

蓋を開ければなんてことは無かった。
いや、何もしなかった。

「はぁ......」
「どうしたの?ハヤト君」
「いや、安堵のため息だよ」

つくづく、自分は不幸だと感じた。
訳の分からないままこうして働かされ、弄ばれているのだから

「そろそろ県境だなぁ」
「道の駅寄ってかない?」
「一応俺達逃走中なんですが?」
「背に腹は変えられない。っていうじゃない?」

優奈はまたわけのわからない事を言った

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北へ...... 10

身体がぎこちなく固まる。
双方、別の向きに眠る。むしろ、コレが限界だ。

バクバクと跳ねる心臓。顔を見たらやばい。身体が触れてもやばい。てか、いい匂いするのがやばい。
どうしてこうなった?どうしてこうなった!!
確かにイエスとは言った。言ったが!!だが、この状況はなんだ?

いや、悪くはないのだが、心臓に悪い。
普通ならご褒美だ!!なんて言えるが、生憎今は状況では何も嬉しくないワケで。

「ねぇ.

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北へ...... 9

長湯に浸った後、俺は部屋に戻った。
ダブルベッドで眠る優奈を見て、俺は車内から持ってきた毛布を手にし、ソファーで眠ることにした。

ベッドほどじゃないが、柔らかい感触で手すりがちょうどいい枕がわりになる。
まぁ、フルフラットの車内よりは10倍マシだ。

「ねぇ」

目を閉じたところで、優奈が声をかけてきた。

「ん?どうした?」
「あのさぁ......」

出し渋る優奈。
一体何を言われるんだ?

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北へ...... 8

シャワーの音が部屋に響く。
滴る水が外部の音をかき消す。

悩みふける頭の中のモヤのような湯気をぼんやり見つめていた。

「わからねぇ」

誰もいない。誰にも聞こえない。だからこそ口走った本当の気持ち。
呆れるほど単純だけど、呆れるほど複雑だった。

ただただ楽観的にこなしていたからこそ、楽観的になれなくなった瞬間。
これから先を見つけられなくなった。

疲労だろう。この考え方。
仮にも逃走中だ。

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北へ...... 7

さて、どうしたものだろう。

一人になると、冷静に考えていける。
もしもこのまま北へ行って、その先は一体何があるのだろうか。
目的が達成したら、はい終わり。で元の生活なのだろうか?

いいや。きっと違うだろう。
終わったからと言って、俺の人生はこのまま悪い方向にしか進まない気がする。
だって、解決する気がしないじゃん。

一から言えば、なんで捕まっていたのかも分からない。
彼女の、優奈の目的は?

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北へ...... 6

どうしてこうなった。
どうしてこうなった!!

割と想像通りのピンク色の部屋で、さらにダブルベッド。
大型テレビからは妙に落ち着いた音楽が流れていた。

「カチカチじゃん」
「当たり前だろ!!初めてなんだから!!」

あはは......と笑う優奈。
流石に慣れた風だった。

「ほら、食べよ」
「お前なぁ」

麓のコンビニで買った弁当を広げ、いち早く食べ始めた優奈。

「図太いなぁ」
「そうかなぁ。

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北へ...... 5

どうしたものか。

あれから一週間が経った。
事件になった感じはしないが、替わりに緊迫感が薄れていった。

良いことか悪いことか。といえば悪い。
なぜかと言うと、緊張感が薄れた結果。逃走中だという意識が薄れていった。

むしろ、逃げなくても良いんじゃないのだろうか。
なぜ逃げてるんだろうか。

そんな気持ちが緊張感を消していく。

この緊張感がなくなった時、きっと大きなトラブルになるはずだ。

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北へ...... 4

走りながら考えること。
山道を走りながら、遠くに目をやった。

空は綺麗で、雲も綺麗な形をしていた。
不意に、息苦しさを感じた俺はちょっとだけ提案をした。

「展望台に行ってみないか?」

まぁ、逃走中の俺らが、どの面でこんな呑気な事を言っているのだろう。と思うだろうが、急がば回れ。という言葉を信じたかっただけだ。

「まぁ、いいけど」

と、賛同してくれた優奈。少し気が緩んだ顔をした。

道沿い

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