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私が6歳か7歳の頃、弟と使っていた2段ベッドの上段で、どこなのかわからないけれど、私はどこかへ帰らなくちゃ、と思っていました。


帰るといっても、今いるのは自宅なのに一体どこへ?


とにかく、私は今いる場所に違和感を覚えていたのでした。


何かをするのにやたらと時間がかかったり、願ってもすぐには結果が目に見えない、思いだけで人と意思疎通できない、自分が知っている場所と明らかに違う、この地球。


一言でいうと、「もどかしい」。
私が知っている世界と違う。


優しいママや楽しい弟たちとの生活にはなんの不満もなかったけれど、違和感と元いた場所に戻りたいという気持ちから、私は、ある日、帰ろうと決めました。


でも、小学校にも入っていないような子どもです。
地球から元いた場所への帰り方がわかりません


それで、白い延長コードをトイレに持ち込み、そのコードで自分の首をぎゅっと締めてみました。
意識がなくなれば、帰れると思ったのです。


でも、子どもの力では、死ぬことも意識を失うこともなく2、3回咳をしたくらいで、私は、「帰る」ことはできませんでした。


この時の気持ちを、今でも覚えています。
この違和感とともに、地球で生きていかないといけないのかと、諦めにも似た気持ちです。


時は流れて高校生になった私は、サマーキャンプの時に担任の物理の先生に聞きました。


「先生、どうして人は生きなくちゃいけないんですか?」


一面の星空の下、同級生は花火をしたり、テントできゃあきゃあ言ったりしています。


先生は、困った顔をして私に言いました。
「そうだなあ。それを知るために生きるんじゃないのかな」


・・・
物理の先生なのに、知らないんだ、答え。


私は、大人でもわからないこの問いの答えを探し続けて、今日まで来ました。


大人になってから、私は、ある女性と知り合い、軽く手に触れるだけで、その人の潜在意識の中にあるブロックを解除してくれるというセッションを受けました。


セッションが始まってすぐに
彼女が言った言葉は、
山口さんは宇宙人です」。


どうも私は、(潜在意識的に見ると)宇宙から地球に留学に来ているらしく、地球のいろいろな慣習になじめておらず、そのため、緊張や孤独や疲れを感じているとのこと。


そして地球の貨幣の価値がわからない。
これは納得です。


私にとってのお金は数字の羅列で、稼いだ金額は、ゲームの得点くらいにしか考えられなかったので。


でも、他人から見て浮かないように、世間の価値観に一生懸命自分をアジャストしてきました。


仲間外れにされないように、ひとりだけ目立たないように、左右をいつもキョロキョロ見渡し、みんなに合わせることが癖になっていました。


まわりも見えすぎてしまうし、人の考えも読めてしまう。
でも、実はこれは私の才能だったのです。


***

「このまま本当に結婚していいんだろうか?」

誰もがうらやむような条件の男性からのプロポーズを受け、婚約した私は毎日悩んでいました。


学歴もあり、親は地方の名士で、年収も高く、経済的に安定した彼との婚約に、母は大喜びです。


世田谷に広い家を借り、婚約者と一緒に暮らしながら、私は会社を退職して花嫁修行をするように言われ、料理や英語などを習っていました。


数ヶ月後には式を挙げるというのに、なんだか浮かない気持ちがするのは、単なるマリッジブルーではないようです。


幼い時から、地球で生きていくことの違和感を感じていた私は、世間の価値観に合わせて生きてきて、この結婚はその総仕上げのようなものでした。


結婚すれば、世間のレール、それも上流と呼ばれるレールに乗ることになります。


会社の先輩から付き合おうと言われるがままに付き合い、数ヵ月後にプロポーズをされ、あっという間に花嫁修行に入った私。


でも、彼の実家に挨拶に行った時に、彼の母親やお姉さんから上品だけど意地悪な質問をされ、自分が育った家庭との違いに居心地の悪さを感じました。


「私の人生、これでいいの?本当にこの結婚が望んだことなの?
まだ、私は本当の自分の人生を生きていないんじゃないの?
綺麗な家で、彼が買ってくれたお人形のような洋服を着て、食事のしたくをしながら彼の帰りだけを待つ生活が、本当にしたいことなの?」


何度も自問自答して、最終的に出た答えは、「NO」でした。


彼の実家のご家族を怒らせ、自分の実家の母親も泣かせて、私は彼との婚約を破棄しました。


ちゃんと、自分の人生を生きなければ。

私は、何のために生まれてきたんだろう。

私は何をしたいんだろう。


考えても、その答えは分かりませんでした。


だって、今まで、まわりの人に合わせて生きることしかしてこなかったから。


婚約破棄して1年半ほど経って、渋谷のライブハウスで偶然耳にした歌声。


なんだろう、この胸に刺さってくる言葉と声。


「来月もライブやるんで、よかったら来てください」
ライブが終わり、歌っていた青年がチラシをくれました。


それが、夫との出会いでした。


彼は、ひとり暮らしをしている大学生で、毎週土曜日は新宿の路上でストリートミュージシャンをしているとのこと。


誰も聞いていなくても、淡々とギターを弾きながら、路上でオリジナルの曲を歌っていました。


流行りの曲でも歌えば、誰かが足を止めるかもしれないのに。


でも、彼は誰も知らないオリジナル曲しか歌いませんでした。


私は翌月も渋谷のライブハウスに出かけました。彼の歌を聞くために。


その翌月も。

その翌月も。


だいたい4組くらいのアーティストがかわるがわる歌っていましたが、彼に固定のファンはいないようでした。


話をしてみると、彼は私の4つ年下で、大学の3年生。好きな小説や映画の好みが似ていました。


婚約破棄した彼は、何もかもを持っていた人でした。


目の前の彼は、学歴もお金も将来性も何もありません。


でも、この人といられたら、私の中の違和感が消えるかもしれない。


彼の歌を聴きながら、この出会いが自分の人生を変えると私は確信していました。

へつづく)

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