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「ありがとう」はすごい言葉です / 東田直樹『自閉症が30歳の僕に教えてくれたこと』


以前、東田直樹さんの本について書いた。



その中で、

早速、最新の『自閉症が30歳の僕に教えてくれたこと』を買った。(同じアラサーなので気になる)

と書いたまま、肝心の感想を書いてなかったので書く。


ちなみにこの本は、反響のあったツイート投稿に、エッセイや詩を追加して書籍化したものらしい。いくつか印象的だったもの・共感したものをここに記録しておく。



見た目ではわからなくても

 僕は感激していても、見た目ではあまりわからない時があります。「わかっていないんだ」と言われると、嬉しかった気持ちもしぼみ悲しくなります。
 その言葉を本人に告げるメリットは何でしょう。「わかっていない」と言葉にせずに、わかっているかもしれないよねと思って、寄り添ってほしいです。

東田直樹(2023)KADOKAWA
『自閉症が30歳の僕に教えてくれたこと』(p.70)



東田さんのすごいところは、見た目や声として発する言葉だけではなかなか伝わらない自閉症の方の感情を、こうして文章にして世界のみんなに伝えてくれたことだ。

もちろん、これは東田さんだけの感情なので、他の自閉症の方が同じように感じているかは分からない。

でも、「見た目から想像したことと全然違うこと感じてた!」というこの衝撃。そして「心の中まで見た感じと全く同じだと安易に判断しちゃいけなかったね…ごめんね…」という反省。


彼が13歳の時に書いたという『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』を読んだときも思ったが、人間の表情や態度や言葉や、とにかく目に見えるもの聞こえるものなんて、全然あてにならないなと思う。

もちろん態度や言葉も大事なんだけど、それ「だけ」で決めつけてはいけない。その奥を想像したり、目に見えるものを疑ったりしないといけない。

「本当にそうなのかな?」と想像して、相手の本意を知ろうとすることが、コミュニケーションの目的なんだと思う。



次にいいなぁと思ったのはこれ。

自然体でいてほしい

 自閉症者の気持ちに寄り添いすぎて、周りにいる人が疲れてしまうことがあります。僕自身が相手に求めることは、自然体でいてくれることです。支援内容ばかり気にせず、一緒にいることを楽しんでもらえたら当事者も気が楽でしょう。気負いのない態度というのは、場の空気を穏やかにしてくれます。

(p.89)


本当の意味での共感はできないかもしれない。でも、よく分かるような気がした。寄り添いすぎて疲れちゃったら意味ないし、逆に気遣う。


ちょっと論点がズレるかもしれないが、私は一緒に暮らす人は鈍感な人がいい。あまりに敏感だったり気がつきすぎる人だと、いつもこちらを見られているような気がしてしまいちょっと疲れる。(実際夫は鈍感なタイプなのでかなり楽)


あれこれ相手にギブしすぎるよりも、むしろ何もしない、相手に気を遣わせず自然体でいる態度のほうが、意外と相手にとっては一番嬉しかったり優しかったりするよなぁ〜と思う。

過剰なサポートは、するのもされるのも私は苦手。いつもはそっけないくらいなのに、本当に困った時やいざという時にはパッ!と手を差し伸べる、ってくらいが理想。綺麗事かなぁ?



これもめちゃくちゃ分かる。

自分らしくいられる時間

 ひとりでいるときや家にいるときには、自分が自閉症であることを忘れていることのほうが多いです。どうしてなのかを考えてみると、「何か」や「誰か」に気を遣う必要がないからだと思います。「ありのまま」というよりは「自分らしく」いられるのです。
 気ままでいられる時間は楽しい時間です。

(p.148)


社会や学校などの集団の中で「自分らしく」なんて無理だと思う。本当に自分らしくいられる時間って、お風呂とかトイレとか、誰もいない空間だけでしょう!(ネコなどは除く)

私もひとりの時間が大好きです。



すごい言葉

「ありがとう」と言われたら、何だか自分が役に立った気がして嬉しくなります。
 感謝されると、あなたがいてくれてよかったと言われたような気分になり、温かい気持ちになります。褒められることより「ありがとう」の言葉のほうが心地いい時もあります。
「ありがとう」はすごい言葉です。

(p.137)


この世に「ありがとう」に勝る言葉って、
あるんだろうか?

「愛してる」なんかよりも1000倍使いやすくて、誰にでも使えて、TPOも無関係。

最高の呪文だと思う。



私が好きなアドラー心理学では「褒めてはいけない」という教えがある。なぜなら「褒める」という行為は、上から下の縦の関係だから。良いこととはいえ結局は「評価」だから。

アドラーでは「褒めるのではなく感謝せよ」なのだ。感謝は、縦の関係ではなく横の関係だから。

部下が上司を褒めるのはおかしいけど、感謝なら、部下が社長にしたっていいし、もちろん社長が部下にしたっていい。感謝は対等。


「ありがとう」と言われた人は「他者に貢献できた」ことを実感でき、「自分には価値がある」と思える、そして勇気を持てる、という理論。(アドラーで一番重視されるのは勇気)


本当にそうだなぁと思う。
誰だって、褒められるより、誰かの役に立てるほうが嬉しいよ。



話は変わるが、私には3歳の娘がいる。

私はズボラで面倒くさがりなので、まだ子育て4年目にしてかなりテキトーな育児をしてしまっているが、なるべく「ありがとう」と言うようにだけは意識している。



例えば料理中、娘が「てつだう!」と言ってきたら、本音としてはかなり邪魔になるし危険なので、リビングでおとなしく遊んでいてほしいところだ。笑

でも、そこはぐっと我慢して「じゃあこれやってくれる?」と、できそうなお願いをする。何かをこねこねするとか、まぜまぜするとか。もちろんあちこち汚れるし、目は離せないのでこちらの料理の段取りは止まる。

だけど、本人が気の済むまでやったら「ありがとう!助かったよ!」と言える。それが一番大事なのだから、キッチンや服が汚れることや料理の支度が遅れることなんて、どうだっていいのだ。

「ありがとう!」と言われた本人は、誇らしげに嬉しそうな顔をするのでとても可愛いし、私まで嬉しくなる。まだたったの3歳だけど、感謝されるとやっぱり嬉しいのだな〜と分かる。


最近はその努力のおかげか、たまに「ママ、お茶入れてくれてありがと」とか「ママ、おもちゃ持ってきてくれてありがと!」とかサラッと言ってくれる。しかも不意打ちなのですごく嬉しい。笑


これからも娘に「ありがとう」と言えるチャンスだけは、なるべく逃さずにいたいと思う。
(もちろん夫にも)



東田さんの本は、自閉症ならではのことがたくさん書いてあるので発見や学びもあるが、それ以上に人として大切な言葉や共感できる言葉もたくさん書いてあるので素敵だ。

娘が小学校に入る頃、彼の言葉が教科書に載っていたら最高だなぁ。


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