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「僕は明日の真実を語る」

年が暮れてゆきますね。

空で例えるなら、11月は夜更け前の
暗い真夜中でしょうか?
どう思いますか?

あなたが風邪など
ひいていないと良いのですが

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そして私には、大昔に読んだ本が、
掃除の折に、転がり出てきました

『ドリアン・グレイ の肖像』

オスカー・ワイルドの描いた
悲しみや人生の苦しみを
最高の芸術品のような
美しい悲劇に閉じ込めた物語

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難しい話はやめにしましょう
悲劇はただ、そこにあるだけで
私達の心身を蝕んでしまう

「笑いで友情が始まるのは、なかなか悪く無いね。
 そして笑いで友情が終わるのはもっと良い」

ヘンリー卿は、ドリアンを
破滅に導いた人物とよく言われますが
私、今はどうもそう思えません

ヘンリー卿は、美しく、若いドリアンの
人生を操り、思想を植え付け、
その支配感に快感を覚えていました

確かに彼は、自分の快楽のために
ドリアンへ、破滅の道標を残してしまった

しかし、彼の言葉の節々には
ドリアンが悪の種を、快楽に変え
自分のように楽しむことができると
期待していたようにも思えました

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「感覚によって魂を癒し、
 魂によって感覚を癒す」

美しい言葉は、私をいつも
知らない私や、場所と出会わせてくれる

美しく飾り立てた、他所行きの言葉?
それとも、古い友人のような言葉?

真夜中に摘まれたさくらんぼには、
月の冷たさがこもっていた

どこか遠い場所の、夜明けに
見知らぬ人からもらった
さくらんぼを口に含んだことがある?

私には、そんな鮮やかな夜明けの経験は
残念ながらありません

でも、何故だか、その香りだけは
強く思い描くことができます、きっと
宝石を噛んだ時に似てるんじゃないかな?

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空はもう完全にオパール色になり、
家々の屋根は空の色を映して銀色に輝いている

夜明けと夜更けはよく似ている
そう思ったことはありますか?

私は少なくとも、月に3回は思っている

夜が部屋を暗くした 暗がりが音もなく
その銀色の足で庭から忍び入ってくる
全てのものの色が疲れたようにあせていく

知らなかったな、夜の使いは
銀色の靴を履いているって言うの?

私はってきり群青か、ニュクスを包む
黒に近い紺かと思っていた

銀とは派手で良い、夜の訪れには
誰も何も勝てないでしょうから

母なるニュクスがやって来ると分かれば
潔く筆を置いて紅茶を入れるのが良い

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黒っぽいガーゼのような薄い霧のベールが
次々と晴れ、古来のやり方で夜明けが
世界を作り直すのを見ることができる
力を失った鏡が、模倣という本来の役割に戻る
燃え尽きた蝋燭はもとの位置に立ち
その横には読みかけの本や、舞踏会で挿していた
針金のついた花や、怖くてまだ読んでいない手紙、
あるいは繰り返し読みすぎている手紙がある

夜の通り過ぎた後の世界は
どこか昨日とは違う

それは古来から変わることのない約束
人間が人間なんて名乗らず
自然の皮肉に寄り添っていた時から

昨日のままの配置を守りながら
どこか癒えた表情で
繰り返しを待っているのです

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もちろん、それを裏切ることもできる
朝に眠りについたって
真夜中に朝食を楽しんでも良い

人は変わらないと、たくさんの言葉が
散々説明し尽くしているけど
私は、本質を包む繭の城は
簡単に変われることを知っています

言葉は偉大な友人ですが
何も奴隷になる必要はないのです

ドリアンは、ヘンリー卿の言葉の
忠実な奴隷になりすぎてしまった

ヘンリー卿が思うよりもずっと
強い力を、彼の放つ言葉は持っていたのです

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これこそが古来のやり方
私達に美しく、完璧で、人生の
彩になる悲劇を与えながら
忠告してくれる

難しいことですが、
本当は難しくないと言うことを
忘れないようにしなくては。

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