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MOLの活動はコロナによってどう変化したのか【Moebius Open Library Report Vol.7】

東京学芸大学のMöbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)では、「遊びから生まれる学び」を大切にしながら、図書館と知の未来を考える活動を行っています。最初に考案したPechaKucha from 3 Booksという遊びは、くじ引きでランダムに選んだ本から、新しいストーリーを紡ぎだす遊びです。前回レポートしたとおり、3冊の本をくじ引きして、次回は2月20日と4月9日に発表会をしようとしていたところで、日本列島を新型コロナが襲います。今回はこのコロナ前・コロナ後に発表会の姿がどのように変わったのかを書いてみます。

リアル発表会(2020年2月20日)

PechaKucha from 3 Booksはブックトークのための本をくじ引きで選びます。自分からは手にすることがない本との偶然の出会いを大事にしています。今回からくじ引きには児童書も含むことにしました。不思議な組み合わせの3冊の本から、どんなストーリーが展開されるのか、ワクワクしながら、1回目の発表会の日を迎えます。
2月20日の夜、図書館1階のラーニングコモンズに集まり、スクリーンの前でプレゼンテーションを行いました。コロナ前では当たり前のスタイルでの発表会です。

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トップバッターのフジムーは「障害」について考えました。障害者は「健常者マイナスアルファ」ではない。葛飾北斎が描いた富士山はすべて地上から視覚的に眺めたものだが、現代の視覚障害者は模型を触ることで富士山を知るので、健常者よりも立体的なイメージを持っている。方言の書ではカタツムリを表す語が全国に様々分布していることが述べられているが、手話でカタツムリを表す形は1つであり、一瞬で日本中の聴覚障害者に伝えられる。そんな特性を持つ人たちへの教育はどうあるべきか。平成10年版の学習指導要領では、まだ「健常者マイナスアルファ」という前提で「特別の教育課程によることができる」としているにとどまっているのが残念だ。という文脈を作ってくれました。

・おはなし名画シリーズ「葛飾北斎」 / 小澤弘著 博雅堂出版 2016
・変わる方言 動く標準語  / 井上史雄著 筑摩書房 2007
・中学校学習指導要領(平成10年12月) 解説 ー総則編ー 文部科学省 2004

2番手はケンケン。研究書とともに「かみコップ」の絵本を引き当てたケンケンは「摂合」という持論に持ち込みます。「接合」とは具体的行動の連携というコラボレーションとは異なり、視座や価値観の連動による具体的行動の変化を意味する造語。「ベートーヴェン研究」では記録と解釈による時間を超えた摂合が生まれ、「アメリカの大学開放」では社会とのつながりによる境界(空間と立場)を超えた摂合が生まれ、「かみコップ工作」では発達過程における自己を超えた摂合が生まれた。時を超え、境界を超え、自己を超えて、自分の外側の世界との関わりによる自分の変化を促す。摂合による世界拡張。その本質を考えるきっかけとなる3冊でした。

・ベートーヴェン研究 / 児島新著 春秋社 2005
・アメリカの大学開放 : ウィスコンシン大学拡張部の生成と展開 / 五島敦子著 学術出版会 2008
・かみコップのこうさく : つくってあそぼう / 竹井史郎著 小峰書店 1992

私(ななたん)は「未来への視線」という文脈を話しました。 現在の危機と絶望的な未来を描いた『地球環境「危機」報告』、困難な現状となかなか実現しそうにない未来を描いた『学校と大学のパートナーシップ』。危機・脅迫・困難からは元気がでない野に対して、絵本『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』では「幸せ」という大切な価値観を示して、喝采を浴びた。図書館の未来を考えるときも、危機(図書館は不要になる)や困難(コストがかかるから無理)ではなく、大切な価値観(知の循環の再構築)を大事にしたい、という話をしました。

・地球環境「危機」報告 : いまここまできた崩壊の現実 / 石弘之著 有斐閣 2008.3
・学校と大学のパートナーシップ / Kenneth A. Sirotnik ; John I. Goodlad著 玉川大学出版部 1994.2
・世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ / くさばよしみ編 ; 中川学絵 汐文社 2014.3

最後はソスです。「観察」という文脈を作り出しました。児童書の『メダカ』のインパクトが強すぎてひっぱられたそうですが、3冊とも物事の状態や変化を客観的に注意深く見ることの重要性が浮き彫りにされました。3冊の本を通じて、自分から積極的に読まない分野の本を読み、まず自分との繋がりを探した上で、今まで断片的に学んできたことを学びなおす機会になったということでした。レビューや書評も参考にしながら、それぞれの本の理解を深めたそうです。

・わが子よ、声を聞かせて 自閉症と闘った母と子 / キャサリン・モーリス著
日本放送出版協会1994.9
・明治維新と中国 呂万和著 / 六興出版
1988.10 (東アジアのなかの日本歴史第6巻)
・ぜんぶわかる!メダカ / 内山りゅう、酒泉満監修 ポプラ社 2015.3 (しぜんのひみつ写真館3)

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第二ラウンドから、ブックディレクターのぐっさんが参加してくれたことによって、発表後の議論は深まりをみせました。ぐっさんは発表を聴きながら、即座にお薦めの本について語りだすのです。3冊の本から紡ぎだされたストーリに合わせたお薦めの本が重ねられていきます。フジムーの「障害」には『独居老人スタイル』と『LIFE SHIFT』を。ケンケンの「接合」には『居るのはつらいよ』を。ななたんの「未来への視線」には『スペキュラティヴ・デザイン』を。ソスの「観察」には『超芸術トマソン』と『目の見えない人は世界をどう見ているのか』を、という具合です。既存の枠組みと違うあり方で本を差し出し、本の魅力をさまざまな方法で伝えることのできるブックディレクターの面目躍如です。一般的な意味での良い本を薦める、良い本を選ぶということにとどまらない、その人にあった本を「提供」することがメビウスの左側の輪と右側の輪をつなぐ力になることを感じさせるものでした。

オンライン発表会(2020年4月9日)

2回目の発表会は春休みをはさんで4月9日に設定していました。新型コロナウィルスが猛威を振るい、日に日に感染拡大の状況が悪くなっていく中、出張やイベントもどんどん中止になっていき、図書館でもラーニングコモンズの予約を制限し、夜間開館は中止せざるを得なくなりました。そこで、4月9日の夜の発表会はオンラインでやろうということになりました。今でこそオンラインのイベントは当たり前のことになっていますが、わりと早い時期のオンライン開催でした。

さて、4月9日の最初の発表はぐっさん。3冊の本から「できるだけ平等/公平かつ自由でありたい」という文脈を語りました。フランス革命を描いた「ああ無情」と同時代の「イタリアの歴史」を結び付けるところまでは何となく予想のつく展開。そこに、リーダーに才能は要らない(役職がリーダーをつくる)というリーダーの心理法則を加えて、民衆の力を示したフランス革命からリソルジメント、独裁そして絶対的君民主主義(全員による全員の統治)へと至る、歴史の流れを結び付けて、新しい文脈を生み出しました。

・ああ無情 / ビクトル=ユゴー作 新庄嘉章訳. ポプラ社, 1968.5 (世界の名著  11)
・イタリアの歴史を知るための50章 / 高橋進, 村上義和編著 明石書店, 2017.12.
・人を引きつけるリーダーの心理法則 / 相川充著. 大和出版 , 1997.9

次の発表者ミカンは「本という形態について考えいてる。」という発表でした。3冊とも少し出版年が古いのですが、何かを広めたり啓蒙するためには、出版という手法が一番手っ取り早かった時代の本だという共通点を見出しました。現代ならば、本という形態でなくても伝えることはできる。その時の問題点は何か。逆に現代で「本」がある意味は何かといった考察を含んだプレゼンテーションでした。

・社会生物学論争 : 生物学は人間をどこまで説明できるか / ゲオルク・ブロイアー [著] ; 垂水雄二訳 どうぶつ社 1988
・短期療法解決の鍵 / スティーヴ・ド・シェーザー著 ; 小野直広訳 誠信書房 1994
・Charley, Charlotte and the golden canary(邦題:しあわせどおりのカナリヤ) / Charles Keeping著 Oxford U.P. 1967  

今回は発表者は2人だけだったので、発表後にじっくりと話題を深めあう時間がとれたことがよかったようです。オンラインだとむしろ発表者との距離感を近く感じられ、議論が深まりました。初めて自宅からZoomを使ったミカンとそすは、自宅でも意外に大丈夫だという感触を得たようです。バーチャル背景を使ってみたり、今でこそ「オンラインあるある」ですが、ぐっさんのお子さんが乱入してきたり、オンライン方式を新鮮に楽しみました。Zoomを使いこなしているフジムーからも、録画機能を使えばプレゼン資料が見やすくて便利だという感想も聞かれ、オンラインでの可能性が感じられたイベントでした。

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アンダーコロナで図書館は何をするのか?という問い

この日の最後に、ぐっさんから「コロナで臨時休館になって図書館はどうするの?何か考えていることがあるのですか?」という質問がありました。その言葉は私の胸に強く響き、緊急事態宣言下で図書館は何をすべきかを深く考えるきっかけとなりました。

実のところ、この日のイベントに私(ななたん)自身は参加していません。大学のオンライン授業のための基盤整備、職員の在宅勤務の準備、図書館の臨時休館対応など、そこまでの激務のためにダウンしていたのです。週末に録画しておいてもらったビデオを見ながら、緊急事態宣言の発出された当日も図書館で勉強している利用者が多かったこと、図書館の場所としての価値、つまり誰かに見られていると仕事がはかどるのではないかという意見、もくもく会というIT業界の集まりもオンラインでやってみたという話など、みんなの発言を聞いていました。そして私の頭の中に湧き上がってきたのがオンラインで緩くつながりながら読書する「朝読書ルーム」というアイデアです。緊急事態宣言下で実施してこその企画ですので、すぐさま準備に入って4月20日から実施しました。このことは、まさしく、みんなの知が循環し、私の中で新しい知を生んだ出来事だったのだろうと思います。

さて、アンダーコロナで図書館は何をすべきか?という、この日の問いに対して、東京学芸大学附属図書館のメンバーはそれぞれの持ち場で取り組みました。私からの答えはExplaygroundの動画でお話しています。

Explaygroundラボがコロナ対応でチャレンジしたこと【MOL編】
アンダー・コロナで大学図書館は何をしていたか?

Explaygroundのラボ活動として行った「朝読書ルーム」については、Vol.4Vol.5でレポートした通りです。もう一つの取組みである「デジタル書架ギャラリー」については次回レポートしましょう。(文責:ななたん)


【これまでのMOL Report】
No.1 Explaygroundと図書館の出会い
No.2 PechaKucha from 3 Booksに至る道のり
No.3 PechaKucha from 3 Booksという「遊び」
No.4 「朝読書ルーム」オンラインに図書館的な読書空間を作る試み
No.5 「朝読書ルーム」ふたたび
No.6 知の創出・発信を試行錯誤する

【Explayground URL】 https://explayground.com/


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