祝第165回芥川賞直木賞決定!!と本屋の悩み
テスカトリポカ!テスカトリポカ!テスカトリポカ!ヨリョトル!ティトラカワン!!
あ、取り乱しましてすいません。
半年たつの恐ろしく早くてびっくりなんですが、今年も2回目の芥川賞直木賞決定いたしましたーーーーー!!拍手(強制)
そしてわたしの上半期の読書の中でもかなり上位に食い込むだろうと思っていた、佐藤究『テスカトリポカ』が直木三十五賞受賞!!
いや嬉しい。
正直わたし取らないだろうと思ってたんですよ。だって直木賞ってなんかいつもいい子いい子した本しか取らないんでしょどうせって……
いい子の本が何かって言うと今回かなり議論を巻き起こしている ”文学とは希望と喜びを与えるもの” ってやつに当てはまる本なのかなと(もちろんそう言う本を否定したいわけじゃなく)。
選考委員の中のどなたかがそういう本が賞を取るべきだと仰って反対されていたとかいないとか。
まぁその良し悪しは置いておいて、すごく重要なのはそう言った審議を経た上でなお、この作品が受賞したってことだと思います。
ちょっと今回たまたまわたしが読んでいたのが、受賞作のうちこの作品だけなので、偏った話になることをお許しください。
きっと誰しもがこの作品を読んで、万人に勧められる作品ではないと思うと思います。
なぜなら一つのテーマとして「臓器売買」があり、しかもそれが子供のものだからです。
550ページ近くの長編で、全編通して目を覆いたくなるような暴力描写に溢れているし、一見普通の人がほとんど出てきません(普通が何かにもよりますが)。わたし自身、これはもう読み通すのは無理かもしれないと何度思ったかしれません。
それほどの作品ですが、今回直木賞を受賞したということでわたしは直木賞自体が本当の意味での文学、エンターテイメントとは何かを刷新したのではないかと思いました。いや恐れ多くも偉そうなこと言っちゃったけども。
この作品の何がすごいかって、生命の源「心臓」を軸に、本能的な生命力、死への恐怖、信仰のかたちを描き切っているところじゃないかと思う。ひとつの容赦もなく。
そしてこの作品、ほぼ全体的にアドレナリンが充満しているのですが、後半部分で1章だけ非常に凪いだシーンがありまして、わたしにはそこからこんこんと愛が溢れていて、この物語全体を包み込んでいるように感じられました。
この1章があるからこそ、この物語が本当に血の通った人間たちの物語だと信じられたほどでした。
読み終えて数ヶ月たちますが、今もなおこれを読んだ時の静脈が脈打つ感じを忘れられません。
ドキドキではなくドクドクです。
おそらくこの作品はたくさんのところで議論されるだろうし、たくさんの人たちに爪痕を残すでしょう。
読み終えてああ面白かったではすまない。人々の心に闇を、傷を、嫌悪を残しながらいつまでも後を引いて記憶に残り続ける。そんな本なのではないかと思います。
こういう本が受賞したということが、いや素晴らしい。
本当におめでとうございます。
こうなると本屋のわたしは当然今売りたいわけですよ。旬の受賞作が発表と同時に店頭に並んでいたらかっこいいですよね。
それができないのがこの芥川賞直木賞の悩みどころ。
なぜできないのかというと、この賞は選考会が開かれて受賞作が決定した後すぐに発表となるからです。
だから本屋はもちろん出版社も発表されてから、重版、帯の作成に動けるんですね。
なので、どうしてもその重版分が本屋にくるのはだいぶ遅くなってからになってしまいます。
予想をつけて候補作もすべて事前に在庫確保しておければよいですが、うちのような郊外の中小書店にはそもそも配本もないし、注文しても大幅に減数されて残らないパターンがほとんどです。
〈本屋大賞〉はこれを避けるために、出版社と参加書店には事前にお知らせしていただけます。
なのであんなにすぐに店頭に本屋大賞コーナーが設置できるんですね。
これって売るためには地味にすごく重要なことで、耳の早いお客さんたちは賞が発表されるとすぐに書店に来てくれるし、その時に売り場にドーンと並んでいたら世間のムードと合致してそれこそ飛ぶように売れるんですよ。
でも1週間程度でもタイムラグが発生してしまうと、どうしても話題は薄れてバラバラバラとした売れ方になってしまう。
前回の芥川賞『推し、燃ゆ』は河出書房さんの対応が早かったし、重版のテンポが非常によかったので売り上げを逃さずにいけたんじゃないかと思います(未だに売れてる)。
まあ〈芥川賞〉〈直木賞〉は売るための賞じゃなく、純粋に作品のクオリティによる賞だということなのかもしれませんが、だったらそこのところもう少し一般のお客様に周知してほしいと思ってしまうんですよね。
テレビなどで受賞しましたとやるとすぐに手に入るものと思われますし、なんで並んでないんだここはおかしいだろってことになるんですよね。
今回芥川賞候補の作品はめずらしく全て事前に書籍化されていましたが、通常は芥川賞に関しては本すら出ていないこともしばしば。
受賞が決まってようやく書籍化っていうこともたくさんあるのです。
売れる時に売るものがないというのは、本当に本屋として忸怩たる思いがあります。
そしてこの問題はずーっと以前から言われてることなので、今後もきっとこのままなのでしょう。
なのでせめてこのページを読んだみなさまには、本屋に芥川賞直木賞が発表後すぐに並んでなかったとしても、ああそういう理由があったのかと納得していただいて、申し訳ないですが注文していただけたらと思います。
今回は受賞作みんな月末には入荷するんじゃないかと思っているので、なんとかそれから売り場を盛り上げて売っていきたいと思っています。
芥川賞2作品も非常に面白そうなので、できれば読んでお伝えできればと思いますが、こちらはいつになることやら未定でございます。
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