見出し画像

第12回俳句四季新人賞応募作『トーキング・アバウト』









『トーキング・アバウト』田中目八

ここよりを歳改むるその暴力

極楽てふ偽史のいろどる去年今年

初東雲あまねき瓦礫の天蓋

西口の恵方東口の戦場

ふくわらひ国家は顔をもたざりし

春水のいま戦争のかたちして

国民総カンダタ時代龍天に

さへづりの縮みゆく平均寿命

黙祷をやぶる沈黙夏ごほり

蛇亀象大地死体の上の死体

箱庭にどれほどの命ありしか

西瓜人家街国の割れにけり

きざはしを跣でゆける子どもたち

夏草をにじる歴史の灰かぐら

万緑の圧倒的な軍事力

来し来し来し花野を浄化する機械

人それをしらぬひと云ふ戦火と云ふ

たましひに幻肢痛ありオリーブの実

白露のペテンを子らの死にゆける

澄む水のそれを地獄と云ひたまふ

しぐれしぐれ止まぬしぐれの止む祈り

社会鍋最後尾より死にゆける

おほかみをながらへしもの戦場へ

文化なる凍土の上の楽土かな

聖夜このケーキの上の停戦よ

ふる雪のひとつひとつの名を呼べり

詩人とは冬将軍の恐れたる

忘年へ抗ふものよ筆をとらむ

極月や神てふ贄の尽きて今

賞与無き胸に弾丸撃ち込めよ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?