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全然連絡とってないけど、一つ年下、インドネシア人、尊敬するダニエルとの出会い@タスマニア 後編

「Daniel, aren't you in love with someone?(ダニエル、好きな人、いるよな?)」

星を見つめ続けるダニエル。タスマニアの夜の静寂な間。無数に輝く星空に混じるも、ひときわ輝いている、真夏のオリオン座を眺めていると、異国を感じ、郷愁の念にいざなわれる。

「I'll change the way I ask. What do you think of Monica as a woman?(聞き方をかえるね。モニカのこと、女性としてどうおもってる?)

顔硬らせ、一点の星を凝視するダニエル。幾つもの星が流れ落ちるのを見つめる2人。だいたいいつもニコニコのダニエルが、いつになく真剣な顔をしている。

「Taku?」

「yeah?」

「You know she thinks of me as just a yonger brother. What do you think how come she thinks that way. (彼女は僕のことただの弟分としか思ってなくてさ。なんで彼女はそうなんだと思う?)」

「How old is she?(彼女いくつ?)」

「Twenty five this year(今年で25))」

「Six years older than you then. So you too young for her, you reckon?(お前の6歳上か。彼女には若すぎるってことか?)」

「Yeah, at least that's what she thinks. (うん、少なくとも、彼女はそう考えてるよ)」

「I see. Well, Yannie is seven years older than me.(なるほど。イェ二ーは俺より7歳上だけどな)」

ダニエルの向かいの部屋で、ダニエルをゴミ扱いしたセシリア(全然連絡とってないけど、一つ年下、インドネシア人、尊敬するダニエルとの出会い@タスマニア 中編を参照ください)とイェニーの2人が住んでいた。面積が狭く土地が高騰している香港の人は、狭い空間で生活を共にするのに慣れている。タスマニアでセシリアの思い込みの第一の被害者は、ダニエルではなくイェニーだ。原因不明のままだがイェ二ーを恨みだしたセシリア。一緒にベッドすらシェアしつつも、一切口を聞いてくれない事件が数ヶ月に渡り続いたらしい。イェ二ーもダニエルに負けず劣らず、不幸に向かわない決意を実践する者の、静かなる精神の頑健さがあった。目には目を歯には歯を、ならぬ、悪意・敵意に、反撃・迎撃など一切しなかった。不幸に付き合うだけ、負けなのである。不幸の連鎖には向かわない、不幸のアリ地獄には踏み入れない、断固たる決意である。
そういう生き方しかできない可哀想な人。
自ら不幸に突き進むセシリアを、心の底から哀れんでいた。
ダニエルとイェ二ーから、人の悪口をついに一度も聞いたことがない。そんな、清らかで透明感のありつつ芯の通った心に、僕が惹かれたのがきっかけで、ちょうどイェ二ーと交際したての頃だった。

「I confess I was a bit suprised at first but you know Japan and Hong Kong are much much developed than Indonesia. In Indonesia woman are supposed to get married much older man. It is so natural that Indonesian woman thinks six years younger guy as a young bro than a guy to be in love with.(初めは正直ちょっとびっくりしたけど、日本と香港、インドネシアと比べて、物凄く発展してるじゃん。インドネシアでは、女性は、うんと歳上の男性と結婚するものとされてるんだ。インドネシアの女性にとって、6つ年下の男性を恋の対象とみるより、弟分と見るほうが、とても自然なことなんだ。)」

「It doesn't matter what she thinks. I am talking about your feeling. I'm gonna ask you again. Aren't you in love with someone?(彼女がどう考えてるかなんて関係ない。俺は、お前の気持ちの話をしているんだ。もう一度問うぞ。誰かに恋をしてませんか?)」

「Yes, I do love Monica, and am I in love with her!(ああ、モニカを愛してるし、彼女に恋してますとも!)」

「I'm glad to hear that. So then what next?(それをきけて良かった。で、次は何?)」

「what I hope the most from the bottom of my heart is her smile, happiness and well-being. Hey, Taku.(心の奥底から、僕が最も求めているのは、彼女の笑顔であり、幸せであり、幸福の状態なんだ。ねえ、たく。)」

あらたまったダニエル。

「Have you ever felt God?(今まで神を感じたこと、あるかい?)」

「I neither deny religion nor atheism.
I suppose the matters beyond humankind's understanding as a kind of God but I have never felt specific God.(僕はね、宗教も、無神論も否定はしない。人知を超えた事象をある種の神とみなしてるけど、特定の神を感じたことは、一度もないかな。)」

「As a Christian I do feel God within my heart, and I wish Monica's happiness to God all the time. No matter what cotributes to her happiness, I am determined to do so. Then, now she wants me to be her younger brother.(キリスト教徒として、心の中から神を感じているし、いかなる時も、モニカの幸せを神に願っているんだ。彼女の幸せに貢献するものならなんでも、やる覚悟でいるんだ。それで今、彼女は僕に弟分としていて欲しがってるんだよ。)」

「So you are not going to tell her you love her as not only a friend but woman.(てことは、友達としてだけでなく、女性としても愛してることを、彼女に伝える気はないんだな。)」

「That's not the point Taku. what I want by far the most is her happiness. Compared with it, what I feel to her as a woman is nothing of value.(そこはポイントじゃないんだよ。僕が最も心底求めてるのは、彼女の幸せなんだ。それに比べて、僕が女性として彼女に感じていることなんて、何の価値もないんだ。)」

19歳の言える台詞か。弟分の役割を全うしつつ、明らかにダニエルのほうが、僕は愚か、モニカより、達観しているのである。なんと美しく、なんとかっこいい生き方なんだ。20歳の僕はただただ感銘を受け、お前こそ幸せになってほしい、と、心の中で祈るばかりだった。

背中でも、言葉でも、ダニエルから教わったのは、無償の愛、だった。

それは、何かを強く信じる者の強さ、であり、美しさ、でもあるように思う。信仰の美しさを、体感した刹那でもある。

僕がタスマニアを去る時が来た。

「Taku, I want to give you this.(タク、これ上げるよ)」

500円玉よりひと回り大きいコインだった。

20年近く財布の小銭入れに入れているコインの表には、

A friend loves at all times(友はいつでもあなたを愛している)

裏には、

Friendship is the Golden Thread that ties
our hearts together
(友情は、われわれの心を繋ぐ黄金の糸である)

と、刻まれている。

P.S.
タスマニアから日本に帰国し、数年の時が流れた。

久々にエリカから電話がくる。韓国人のテウが僕より先に国に帰り、その部屋に引っ越して来たエリカは元ハウスメートだ。

「たくさ、インドネシア、一緒にいってくれない?」

「は、なんで?」

「あ、ダニエル覚えてる?モニカも知ってるよね?」

「もちろん」

「今度、2人の結婚式があるんだ。タクも誘いたいって言ったら、名案ってことになってさ。インドネシア語の結婚式に1人で行くのも辛いじゃん」

それ以上の言葉は耳に届かない。止め処なく涙が溢れてきた。

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