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美し過ぎる静嘉堂文庫美術館@丸の内

丸の内に移転したばかりの、静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅰ『響きあう名宝 ―曜変・琳派のかがやき―』で、凄いものを見てしまった。

静嘉堂文庫美術館は、少し前まで、渋谷区岡本という場所だった。三菱財閥の岩崎さんがコレクションした東洋の美術品が多数所蔵されているらしく興味はあったものの、少し遠いなぁとそのままになっていた。今年移転したということで早速行ってみたのだが、想像以上の名品がたくさんあって驚いてしまった。

まず、移転先の明治生命館が美しい。昭和初期に造られた建物で、重要文化財に指定されている。古典主義様式とされていてパルテノン神殿みたいな大きな柱が印象的だけど、日本の洋館らしく、何となくつるんとしている。細かいところまで豪華な装飾が施されているが、緻密で正確な造りのために、ゴテゴテしておらず、キレイな線で描かれたようなスッキリした見た目だ。

展示されている所蔵品は、絵画、彫刻、書跡、漆芸、茶道具、刀剣と幅広く、国宝や重要文化財も多数ある。中でも私が面白かったのは、茶道具と刀剣だ。歴史ドラマや小説に出てくる、有名な戦国武将が大事に愛でていた大名品が並んでいる。

数百年前、織田信長や豊臣秀吉や徳川家の将軍たちが手に取り、眺めていたのかと思うと、不思議な気持ちになる。同じ時代に生きていても、一般人は見ることも存在を知ることさえなかったわけだから、現代まで美術品を守った人と美術館というのは、本当に偉大。

あと、今回初めて刀剣に興味がわいた。以前、知り合いのおじさんが「骨董好きは最後は刀に行きつく。夜、それを一人で見るのが好きなんだ」と言っていて、まったく理解しがたいなと思っていたのだけど、急に分かる気がした。丁寧に磨かれた大きな刀は、ただ置いているだけで存在感がある。装飾が施された鞘もいいのだけど、やはり刀そのものの魅力が圧倒的に強い。てらてらとした光を見ていると、その世界に入り込んでしまって、ふっと自分がどこにいるのか忘れそうになった。

そして、一番凄かったのは、やはり「曜変天目(稲葉天目)」茶碗だ。南宋時代の茶碗で、完全な形で国内に在るのは3点のみ。とても有名な茶碗で、1度は見てみたいという気持ちだった。展示ケースには人垣ができている。

外側は黒くて、思ったより小さい。お茶のお稽古で使うのより、一回り小さく見える。中を覗くと、黒地に鮮やかなブルーが見える。偶然できたというランダムな斑点から、ブルーの釉薬が茶碗の底に向かって滴っている。宇宙みたいと表現されるようだが、大袈裟じゃなかった。見ているとブラックホールに吸い込まれるようだ・・。

武将たちが茶道具や刀を好んだのは、物それ自体の本来の用途だけでなく、その世界に没頭することで自分の思考をリセットすることができるということにもあったんだなと思った。凡人には想像もしたくないハイプレッシャー生活の中、美術品が非日常を体験させてくれる。精神の安定剤になっていたんだろう。茶道具と領土を交換するなんて、昔の人の感覚は尋常じゃないなと思うが、それだけのストレス軽減効果があるのかもしれない。

その他にも、オシャレな琳派の作品がいろいろあって楽しかった。昔の人の美的センスが、現代のよりも好きなのだよね。今年最後の美術展巡りになりそうだけど、いい物がたくさん見えて幸せだった。近くなったから、これからも静嘉堂文庫美術館に通いたい。

中に入ると、岩崎さんがお迎えしてくれる
素敵な天井。洋風デザインだけど、隅々まで正確に造られてるのが日本っぽい
ゴツゴツした外壁に、小さいライトと木の扉。かわいくて、とても上品だ


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