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コロナショックを機に「良い企業」を評価する「B Corp」は広がるか?

コロナショックは貧困や医療格差などの社会の不公正を明らかにするとともに、その陰で、社会に利益をもたらす「良い企業」の選別が始まっている。とくに、「医療格差」や「人種差別」など多くの問題が顕在化したアメリカでは、「良い企業」であることの証として「B Corp」という認証を取得しようという動きが大企業に広まっている。日本ではまだ取得している企業が少ない「B Corp」が今後広がる可能性はあるのだろうか?

コロナ禍で強まる企業への風当たり

2020年に始まったコロナショックをきっかけに、世界各国で貧困や医療格差、人種間の差別など様々な社会の「歪み」が顕在化するようになった。特に、アメリカ、欧州、日本など、これまでの経済至上主義が成功していたかと思われていた国々でも問題が次々と表面化している。

そんななか、社会的影響力が強い大企業を中心に「利益偏重」「株主至上主義」といった姿勢への風当たりが強くなっている。アメリカでは世界最大のホテルチェーンであるマリオット社が、コロナ禍下で会社による従業員の一時解雇や医療ケア費削減が進む一方、最高経営責任者であるソレンソン氏が自らの報酬額を引き上げた、と批判を受けた。

「ソレンソンを含むすべての幹部は、毎年何百万ドルも支給されており、私たちは数ドルしか得られません」と、マリオットグループの従業員は訴えている。(Big Business Pledged Gentler Capitalism. It’s Not Happening in a Pandemic.

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アメリカの大企業で「良い企業」であることを証明する認証への関心が高まる

こうしたなか、アメリカの大企業では社会的課題に取り組む「良い企業」を認証する「B Corp」への関心が高まっている。

「B Corp」とは、2006年にスタンフォード大学出身のジェイ・コーエン・ギルバート、バート・フーラハン、アンドリュー・カソイが立ち上げた、非営利組織「B Lab」が発行する民間の認証制度である。B Corpは、企業の社会的および環境的パフォーマンスの両方を測定する唯一の認証だ。

B Corp認証の評価プロセスでは「ガバナンス」「従業員」「コミュニティ」「環境」「顧客」の5つのカテゴリーで企業のパフォーマンスが測定される。認証を希望する企業は「Bインパクトアセスメント評価表」の提出が求められ、200点のうち、最低でも80点をクリアする必要がある。同評価では、会社の経営とビジネスモデルが従業員、コミュニティ、環境、顧客にどのように影響するかを評価し、サプライチェーンや投入資材から慈善寄付や従業員の福利厚生について、監査を受ける。

2020年夏現在で、71か国、3,422社が認証を受けている。その大半が中小規模の会社で、多くの場合、これらは最初から企業の設立理念に社会的責任を組み込んだスタートアップだった。しかし、ダノン・ノースアメリカ(年間売上高60億ドル)やブラジルの化粧品会社Natura(年間売上高30億ドル)など、大企業も認証プロセスを受け始めている。

これらの企業に加えて、2020年はコロナショックや、アメリカの人種差別撤廃への関心が高まっていることから、労働問題への対応を検討している企業が増えている。こうした、世論の変化を受け、B Corpを取得しようという動きが広がっている。B Corpによると、英国のインパクトアセスメントの1日あたりの平均ユーザー数は2倍になり、アパレル、ジュエリー、皮革製品のカテゴリから特に関心が寄せられて、年間認証数は40%増加した。(Why more brands are seeking out B Corp certifications

日本でB Corpは広がるのか?

では日本でも大企業を中心としたB Corp取得を目指す動きは広まるだろうか?

日本では現在6社がB Corpを認証している。6月16日には、ダノン・ジャパンが日本の大手消費財メーカおよび食品業界で初めてB Corp認証を取得した。

しかしB Corp認証を取得するのは容易ではない。

B Corpの認証を受けるためには、ガバナンス、労働者、環境、顧客、コミュニティの5つの主要分野を測定するポイントシステムでブランドを評価され、合計200点のうち、合格するためには80点が必要だ。今回、ダノン・ジャパンは83.5点で、5つのカテゴリー全てで平均点を上回る評価を得た。一方2006年にB Corpが設立されて以来、10万社以上の企業がB Corpインパクトアセスメントに登録しているが、 認証を受けている企業はわずか3,500社だ。B Corpの認証を希望する企業は、合格率わずか3.5%の狭き門をくぐらねばならない。

ただB Corpに取り組むメリットもある。このプロセスに取り組みことで、企業の弱点を浮き彫りにし、より持続可能なビジネスに移行するためのロードマップを提供している。こうした課題に取り組んでいくことで、企業は「より良い企業」に向けた変革を進めることができるのだ。

日本においても2014年のスチュワードシップ・コード制定を皮切りに、ESGといった観点で、企業の長期的成長を重視する投資家が増えている。アフターコロナにおいても、こうした運用方針の流れは変わらず、むしろコロナショック後はよりESGを重視する、と考えている投資家も多いという
とくに、「気候変動」といった従来の課題だけでなく、コロナショック前の過重労働や、満員電車での通勤など、従業員の健康的な生活を軽視してきた社会への反省から、「雇用確保」「働き方改革」「従業員の健康」といった「S:社会」に関連するテーマへの関心が高まるという予測もある。

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株主に利益をもたらす企業が「良い企業」であるという定義から、従業員や顧客、社会や環境に対しても利益をもたらすことができる企業が「良い企業」であると、社会の認識が変わりつつある。また、そうした企業に投資をする方が、長い目で見ても、経済的利益をもたらすという考え方が投資家の間に広まっているのだ。実際、イギリスの国家統計局によると同国のB Corp認証を取得しているブランドは、2018年の国家経済成長率0.5%に対し、28倍の速さで成長したという。

コロナショックは、世界で様々な社会問題を顕在化させたが、こうした問題に対しても、経済と社会の両方のバランスを重視した企業が、アフターコロナの社会をけん引することが期待されている。日本においても、ESG経営に取り組んでいることを客観的な指標をもって対外的にアピールしたいと考える企業は増えてくるだろう。

これまで日本では「B Corp」の認知度はそれほど高くなかった。しかし、アフターコロナの流れで認証取得を目指す企業が増えていく可能性は十分あるといえるのでないだろうか。 

今後「B Corp」がISO14001や、気候変動におけるTCFDなどのように、多くの企業が取得を目指す、主流の認証となるか注目したい。

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