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親友であり好きな人だったあの子の話

中学生のとき、私には好きな女の子がいた。花に例えるなら向日葵以外の選択肢は思い浮かばないくらいに、明るくて前向きで真っ直ぐで、夏の季節が似合う、私とは正反対の素敵な子だった。在学中は大きなすれ違いもあったけど、私は彼女と親友という形で仲良くさせてもらっていた。

彼女への気持ちが友愛から恋愛に変わったのはいつ頃だったのか、そのキッカケさえもわからないけれど、出会って初めて迎える夏に違和感を感じていたことだけは覚えていて、もしかしたらその頃から彼女のことを好きな人として見ていたのかもしれない。

初めて同性の相手に恋愛感情を抱いて、戸惑いは勿論あったけれど、性別なんて関係ないと思えるくらいに人を好きになれる自分が居たことに驚いた。自分自身が所謂そういう人間に対して否定的でなかったことも、救いの要因であったのかもしれない。けれど、恋心を自覚したからと言って何かが変わるわけではなかった。彼女の距離感の近さやスキンシップに困惑する私が居ること以外は、普通で、何も変わらなかった。

中学卒業後は、別々の高校に進学した。本当は彼女と同じ学校へ進みたかったけれど、友達と一緒が良いからなんて浅はかな理由で進路先を選ぶほど私は進路活動を不真面目にやっていたわけではないから、悲しいけど仕方なく、別の道に進んだ。同じ教室で過ごしていた中学の頃に比べて物理的に距離が出来てしまって、話す頻度も会う回数も一段と減った。けれど家が近いこともあって定期的に会う約束をしていたし、何なら高校生活の半ば辺りからは私が誘って同じアルバイト先で働いていたから、関係は変わらず良好だった。



あれから時間が経って去年の春、私は地元で専門学生に、彼女は県外で大学生になった。高校生のとき以上に離れ離れになってしまって、拭えきれない寂しさに時々襲われてしまうけれど、これは私と彼女がお互いに自分の夢を叶える為に必要な別れであるから、マイナスなことばかり言ってられないなと上を向いている。



物理的に距離が出来て、接点が無くなって、真っ先に考えたのが告白をするか否かだった。気持ちを自覚した当初は、告白なんて全くもって頭になかった。初めて同性を好きになって戸惑いがあったのもそうだけど、それ以上に、関係を壊してしまうんじゃないかという不安があった。折角「親友」という関係性と距離感で接せられているのに、告白をしてしまったら「友達」ですら居られなくなってしまいそうだったから、言えなかった。気持ちを伝えて関係を壊してしまうくらいなら何も言わずに親友のままでいる方が幸せだと思ったから、言わなかった。

伝えないという選択が最善だと思った。けれど、物理的に距離が出来ているからこそ、伝えるのもありなのかもしれないという考えがあったのも事実。もし気持ちを伝えたことで彼女に嫌われてしまっても、親友どころか友達ですら居られなくなってしまっても、物理的に距離があれば顔を合わせることはないから大丈夫だと、距離という名の保険が効いてどうにかなるだろうと、そんな考えがよぎった瞬間もあった。

結局伝えることなくここまで来ているのだけれど、これで正解だと今の私は思う。何故なら、今告白をするなら「好きです」ではなく「好きでした」になるから。気持ちを自覚した数年後には、過去形になってしまっているから。実を言うと、もう、彼女に対して恋愛感情は抱いていない。気持ちが冷めた明確な理由が無いからどうしてと聞かれても答えられないけど、いつの間にか「親友であり好きな人」から「親友」になっていた。当時の私は彼女のことを完全に「好きな人」として見ていたからこそ恋愛特有のドキドキ感があったけれど、今の私は彼女を前にしても胸の高鳴りは起きない。友達としての関係性の長さから来た安心感によって、恋愛感情が揉み消されたのかもしれない。そう考えるとなんだか寂しく思う部分もあるけれど、それで良かったと思う。



ここだけの話、彼女が大学生になって人間関係の幅が広がったことを考えると、告白しないという選択肢を選んだ自分を褒めたい気持ちになる。もし仮に私が告白をしてしまっていたら、彼女には〝同性に告白されたことがある〟という事実が過去の出来事として残る。よって彼女が同性からの好意を不快に感じる人間だった場合、「大学生になってまたそんなことがあったらどうしよう」という余計な不安を抱かせることになってしまう可能性がある。私の告白が彼女にトラウマ的影響を与えてしまって、彼女がそれから誰かと良好な関係を築くことが難しくなって苦しい思いをしてしまったとき、私には責任を取ることが出来ない。

そう考えると、彼女の為にも私の気持ちは伝えないで良かったと、自分の中で抱えるだけに留まって正解だったと、心の底から思う。私自身の気持ちだけを配慮するならば、例え過去形になってしまっても心はスッキリするから伝えたいと思うけれど、彼女のことが大切だからこそ彼女の気持ちを考えれば、伝えないのが正しい選択だと思う。




先日、彼女と出会って何度目かわからない年越しを経験した。と言っても一緒に年越しをしたのではなく、今年もよろしくねと画面上で言葉を交わしただけなんだけど、今の私たちにとってはそれで十分だ。

出会った頃から変わらない関係性の私と彼女、きっと今後も変わりやしないだろうけど、それでいい。どれだけ時間が経とうと、どれだけ距離が出来ようと、いつだって私が君を大切に思う気持ちは変わらないから。今年も変わらない二人でいようね。

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