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イギリスの犯罪事情と新政権の対策


 イギリスの統計局が公表したデータによれば、2023年の万引きの件数は43万件に達し、2004年以来、20年ぶりの高水準になりました。イギリスの万引き増加問題について解説します。

イギリスの万引き増加

 イギリスの統計局が公表したデータによれば、2023年の万引きの件数は43万件に達しました。この43万件という数字は、警察に届けられたものを集計したものです。しかし、万引きは警察が取り締まらないこともあり、警察に届けても無駄だと考えて届けないケースが多いと見られています。そのため、43万件という数字は氷山の一角で、実際にはこの何倍もの万引きが行われていると見られています。

イギリスの万引き増加の要因

 万引きの増加の要因は様々ありますが、一つの大きな要因として、200ポンド未満の窃盗を軽犯罪とし、刑罰を軽くする法律が2014年に導入されたことが挙げられます。この法律の導入により、警察の中で万引きの取り締まりの優先度が下がったと見られています。

新政権の対策

 今月政権交代を経て誕生した労働党のスターマー政権は、これを見直し、新しい法案を発表する方針を示しました。これが7月17日の国王スピーチで発表されました。
 国王スピーチとは、イギリスの国会が始まる前に行われる伝統的な儀式で、国王が馬車で国会議事堂に向かい、10分程度のスピーチを行います。スピーチの内容は政府が作成し、今回はスターマー政権がこれから行っていく方針を国王から発表するという位置づけになっています。

賛成意見と反対意見

 今回の国王スピーチで、万引きの刑罰の軽減撤回などの方針が示されました。これに対して、小売業者などは、これまで年間数千億規模の損害が出ていたと言われていたため、今回の取り締まり強化の方針を歓迎しています。
 しかし、一方で反対している団体もあります。リバティという市民団体は、警察が万引きの取り締まりを強化したら、生活できない人たち、物を買うことができない人たちがたくさん捕まることになるとして反対しています。

社会問題

 生活できない人たちがたくさんいる問題については、別の対応が必要でしょう。そこに至るまで、イギリス社会はだいぶ遠回りをしてきましたが、犯罪を減らしていく方針に向かい始めたと言えるでしょう。ただし、根本的な問題として、生活できない人たちがあまりにも多く、それに政治が対応できていないという問題があります。格差の拡大、ホームレスの数がイングランドだけで30万人以上いると言われる状況にどう対応していくのか、これは長い戦いになるでしょう。

万引き以外の犯罪

 万引きや万引き以外の犯罪の状況について詳しく教えてほしいというリクエストをもらうことがありますが、私は警察関係の仕事をしているわけではないため、特別な情報は持っていません。
 しかし、街を歩いていてスマートフォンを盗まれたとか、そういう人の話はたくさん聞いています。そういう話まで含めると、盗難は確かに多いです。2023年には、警察に届けが出されたものだけで5万個以上のスマートフォンが盗まれたとされています。
 一番多いのがバッキンガム宮殿やビッグベンがあるウエストミンスターという地域です。ここだけで1年間で1万8,000個のスマートフォンが盗まれています。人口1,000人あたり70個が盗まれているという計算になります。中心部では、人混みの中でスマートフォンを出すと本当に危険です。
 
私の知り合いの中には、信号待ちをしているところで最前列でスマートフォンをいじっていると、自転車に乗った人がさっと奪っていくというケースや、レストランで食事をしている時に話しかけてきてテーブルの上に置いていたスマートフォンを持っていくというケースもあります。組織的な窃盗グループが存在しているのかもしれません。この他、車の部品の窃盗も多いと聞きます。こういうところも改善して欲しいものです。

ロンドンの現状と日本の素晴らしさ
 先日、ロンドンの崩壊と言われている状況について、私の感想を述べました。私のイメージでは、薬物を使用している人が非常に多く、街中にはホームレスがたくさんいます。ロンドンがやばいというわけではなく、むしろ日本が素晴らしいという視点もあります。

家族で海外で生活するということ

新政権の方針

 この他、今回の国王スピーチでは39個に及ぶ法案が示されましたが、個人的に興味深かったのは、全ての小学校にフリーブレックファストクラブが設置されるというものです。フリーブレックファストクラブとは、食事を食べられていない子供たちがたくさんいることに対して、ランチだけではなく朝ごはんも学校で無料で食べられるようにするというものです。

イギリスの給食事情

 イギリスの給食は昔に比べるとだいぶマシになったらしいですが、日本人の感覚からすると今でも結構偏っているイメージです。チキンと豆、またはピザだけといったメニューが主流で、ビーガンなど、様々な人々が食べられるよう、選択肢自体は多いのですが、日本人の感覚からすると、バランスが良くないと感じるかもしれません。イギリス人が日本の学校給食を見たら、非常に驚くでしょう。
 イギリス人の同僚に聞くと、昔はもっと最悪で、食べられるものではなかったと言っている人もいます。イギリス人が「まずい」と評価するレベルがどの程度だったのかは全く予想もつきませんが、今は昔に比べてだいぶマシになっているそうです。

 イギリスではマクドナルドすらまずいです。家族旅行でスペインに行った時、スペインの空港でマクドナルドに行ったら、ハンバーガーが美味しいと感動したことがあります。スペインが特別美味しかったわけではなく、スペインが普通でイギリスがひどいという話です。

ロンドンの現状と日本との比較

生活水準の向上

 今回の国王スピーチでは、生活水準の向上を目指すということが示されています。これは発展途上国や貧困国のような目標に見えますが、こうした問題にも取り組んでいくことになります。労働党のスターマー政権らしい政策です。国民の生活水準が少しでも向上することを願っています。

学生の運賃逃れ問題

 これらの話とは直接関係はありませんが、7月17日にBBCのニュースで報じられた、鉄道会社が11の中学校に所管を送り学生の運賃逃れに協力するよう要請するとともに、鉄道警察にも協力を要請したというニュースがありました。これらの学校の学生が屋根の上に登ったり、色々なところに侵入して運賃を払わずに鉄道を利用するケースが増えている、また、鉄道会社の従業員に暴行を加えるようなことも起こっているそうです。
 学校の名前まで公表されて問題になっていますが、こういう状況も発展途上国のような状況になってきていると感じます。犯罪を減らしていくというのもなかなか簡単なことではないでしょう。


ご参考

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