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フランスの少子化対策と日本への教訓


 フランスの出生率がEUで最も高い理由とその少子化対策について、詳しく解説します。
 ご存じのとおり、日本ではすでに人口が減少しており、少子高齢化が一つの社会問題となっています。出生率の低下は多くの先進国が抱えている問題でもありますが、フランスは早くに対策を講じ、出生率を押し上げることに成功しました。

フランスの出生率と少子化対策

 フランスの合計特殊出生率は、1990年代に1.6台まで低下したものの、その後2000年代に入り2.0を回復、2021年は1.83となりました。近年は2を下回っていますが、今でもEUの中で出生率が最も高い国となっています。
 合計特殊出生率とは、一人の女性が生涯に産む子どもの数を示したものです。2.1を下回ると人口が徐々に減少すると言われており、2021年時点で日本は1.30、韓国は0.81まで低下しています。

厚生労働省は、2023年の「人口動態統計」の概数を、2024/6/5に公表しました。日本の合計特殊出生率は1.20に低下し、そのうち東京都の合計特殊出生率は0.99まで低下し1を下回りました。

厚生労働省資料

 これを見ると、フランスの1.83がいかに高いかが理解できます。

フランスの少子化対策の具体的な施策

 フランスの少子化対策は何が良いのでしょうか。
 何よりもまず、お金を使っていることです。2017年の子育て支援の公的支出は、フランスではGDP対比で3.6%になっています。これは、経済協力開発機構(OECD)に加盟している主要38カ国の平均の2.3%を大きく上回る金額です。日本はGDPの1.8%にとどまっています。
 具体的にどのような支援が行われているかというと、まず「N分N乗方式」と言われる大幅な所得減税があります。これは、子供が多いほど所得税が大幅に減税される仕組みになっています。
 
その他、3人目の子供からもらえる手当は、年収300万円程度の人で年間24万円程度となっています。妊娠後に出産にかかる費用やその後のリハビリにかかる費用まで全額政府が負担します。育休時の賃金は80%を保証し、この育休時の保証は男性も同じです。そして、大学まで公立学校はほぼ全て無料、3歳までは保育園も無料です。さらに、不妊治療も43歳までは無料となっています。加えて、子供を3人育てると年金が10%アップするという仕組みになっています。
 どれも充実した制度ですが、年金10%アップというのは個人的に非常に面白い制度だと思います。かかる費用に対して手当てとしてもらえるというのが多い中で、将来の収入が増えるというのは子供を産むことにインセンティブを与えていると考えられます。

日本の少子化対策とフランスの比較

 しかし、日本が同じ制度を導入してもそれだけで出生率が上がるということはないでしょう。フランスの出生率が上がっている要因は、こうした子育てに関する手当が充実していることだけが要因ではありません。コミュニティ全体で子供を育てるという意識が浸透していることもあります。
 日本では男性も育休が取れるようになったり、少しずつ状況は変わってきている面もありますが、男性に比べれば女性の方が子育てに費やす時間は圧倒的に長いという状況が続いています。
 一方、フランスでは子育てに関して男女の差はあまりありません。フランスでも昔は女性が主婦として働くことが一般的で、子育ても女性がやる機会が多かったわけですが、早くから少子化対策に取り組んできたことから、長い時間をかけて子育てにおいても男女平等を実現しています。同じような環境を日本で実現するには相当な時間を要するのは明らかでしょう。
 私はフランスで働いたことはありませんが、イギリスなどでは子育て世代の人と一緒に仕事をすると、急にミーティングの時間が変わったり、その人が欠席になったりするということがありますが、周りの人も全く気にしませんし、本人も全く気にしていません。
 日本人がこうした欧米人と同じような感覚で、日本の社会の中でそれをするのは、文化的にまだ難しいのではないかと私は感じています。

日本の現状と改善策

 実際に、男性の育休取得を進めていることをアピールしている日本の会社などが増えています。取れるようになっただけでもいいかもしれませんが、その取得期間の短さに驚きます。最大4週間取得できる制度になっていますが、男性育休白書2022によりますと、平均で8.7日になっているそうです。
 社会観の違いという面も大きく影響している問題でもあるため、フランスと同じ制度を導入したからといって同じような成果が得られるとは限らないでしょう。
 移民が多いフランスなどの欧米の国では、結婚観も人それぞれバラバラというのがあります。こうした部分も日本とは大きく異なります。
 
フランスでは、結婚せずに子供をもうける人が非常に多くなっており、生まれてくる子供の6割が婚外子となっていると言われています。結婚していなくても子供を産むことは当たり前で、生まれた子供はコミュニティ全体で育てるという意識が根付いています。これが子供を産みやすい環境を作っていると見られています。そして、事実婚状態でも家族としての様々な子育て支援を受けることができます。
 しかし、こうした面は日本とは文化的に大きく異なるため、日本が取り入れても成果につながるとは限らないでしょう。

フランスの少子化対策と政治的コミットメント

 フランスでは、少子化対策に取り組むための家族省を2016年に作りました。少子化対策にしっかり取り組む組織を構築しています。少子化対策に関しては中長期的な視点で取り組むべき課題として、超党派での協議を行っており、政権交代の影響も受けないように取り組んでいます。こうした政治の強いコミットメントも影響しているものとみられます。

日本の少子化対策の方向性

 具体的な施策として、フランスの制度を真似ても、文化的に大きく異なる点があることからそのまま導入してもうまくいかないものが多いと思われます。日本人と日本社会に合う制度を作る必要があるでしょう。個人的には、子供3人目から年金10%アップという制度は面白いと思います。

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