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中国の金融緩和策とその限界の解説


 2024年9月24日、中国の金融規制当局のトップたちが異例とも言える合同記者会見を開催しました。参加したのは、中国人民銀行総裁、国家金融監督管理局局長、中国証券監督管理委員会委員長などです。この会見で金融緩和策が打ち出されました。
 中国は不動産バブル崩壊後、経済の低迷に苦しんでいますが、今回の国慶節を前に金融緩和策を発表しました。しかし、結論としては景気を持ち上げるには不十分との見解が多いです。この記事ではこの中国の金融緩和について解説します。

中国の金融緩和策

 今回発表された金融緩和策、景気刺激策を振り返ります。

預金準備率の引き下げ

 まず預金準備率の0.5%の引き下げがあります。預金準備率とは、民間の金融機関が中央銀行に準備預金として預ける金額の預金残高に対する比率のことです。この0.5%の引き下げは、コロナショックの最中にあった2021年12月以来のことになります。

政策金利の引き下げ

 続いて、各種政策金利の引き下げがあります。7日ものリバースレポ金利の0.2%引き下げ、ローンプライムレートと預金基準金利を0.2%から0.25%引き下げ、1年もの中期貸し出しファシリティ金利を0.3%引き下げ、既存の住宅ローン金利の0.5%引き下げなどです。

住宅関連の緩和策

 その他、住宅関連では中古住宅の頭金比率を25%から15%に引き下げ、地方の国有企業が売れ残り物件を購入するのに元本の100%を融資できるようにする措置も含まれています。

株式市場支援策

 株式市場においては、中国人民銀行が8,000億元のスワップを提供することで、証券会社、保険会社、銀行などが中国株を購入することができるようになります。

アメリカの影響と人民元の管理

 こうした金融緩和景気刺激策が発表された背景には、中国の景気が悪いということもありますが、アメリカが利下げを開始したというのも大きいでしょう。これまでアメリカが金融引き締めを行っている間は、人民元に下落圧力がかかり、さらに金融緩和を行うと通貨安圧力が加わるため、なかなか難しい状況でした。

管理相場制とドルペッグ制

 中国の人民元は管理相場制を採用しているため、ドルに対しての変動が一定の範囲で収まるように当局がコントロールしています。そのため、過度な人民元安圧力がかかると当局が介入しなければならず、金融システムにストレスがかかることになります。アメリカが金融引き締めを行っている時に中国が金融緩和を行うのは難しい面があります。

ドル以外の通貨にペッグをするというのは、今の状況では現実的に不可能です。実際、ドルほど流動性のある通貨は存在しないので、ドルペッグをやめること現実的に難しいということになります。

石油取引の資金の流れと米ドルの重要性

 為替政策において管理相場制やドルペッグ制を採用している多くの国で同じような状況にあります。9月にアメリカのFRBが利下げを開始し、人民元安も一服したため、緩和を行うには絶好のチャンスが来たといえます。

市場関係者の反応

 今回の金融緩和策について、日経新聞は「バズーカ」と表現していましたが、2013年に黒田日銀が行った異次元緩和ほどのインパクトはないでしょう。また、日経新聞は25日に「バズーカ」と書いていましたが、26日には「空砲」と書いており、市場関係者の反応を見て1日で書いていることが大きく変わっています。

 例えば、とある新聞記事で、私たち専門家は、特定の分野の専門的知識を持っていない記者が書く記事は間違っている、と思うことが多々あります。

カナダと欧州の利下げや各国の重要事象の解説

 今回の金融緩和策が発表される前から、今の中国の景気低迷を立て直すには財政政策が必要だろうという見方が一般的でした。今回の金融緩和策は予想よりも大きめのものでしたが、これだけで中国経済が上向くとは到底思えません。量的緩和も実施していません。いわゆる非伝統的な金融緩和はまだ中国では行われていません。
 金融緩和策としてはそこまで大胆に行っているわけではありません。こうした金融緩和策だけでは不十分で、やはり財政政策が必要だという見方が非常に多いです。

バランスシート不況

 中国経済は現在、いわゆるバランスシート不況と言われる状況に陥っているという見方があります。バランスシート不況とは、不動産バブルの崩壊などの景気後退局面で、企業が不良債権の処理などバランスシートの修復に動き、設備投資よりも負債の圧縮を優先するため、金融緩和による景気刺激策が弱まるとする状況のことです。

日本の事例

 日本では野村総合研究所のエコノミスト、リチャード・クー氏が主張してきたことで、一般の方でも知っている方が多いと思います。こうした考え方に従えば、金融緩和を増やしてもあまり効果がないわけです。そのため、日本ではアベノミクスで財政政策も合わせて実施されてきました。
 アベノミクスに関しては、財政政策が十分ではなかったり、途中で消費税の増税もあったりと、なかなか一筋縄ではいきませんでした。実際に、金融緩和だけでは実際に難しい面があります。今の中国も過去の日本と似たような状況にあり、財政政策を行わないと本格的な景気回復は難しいという見方が多くなっています。

中国の財政政策

 これまでも、ダメな企業を潰しながら必要なところは救済し、その上で景気刺激策も過度にならない範囲で実施してきたのが、2020年以降の中国の財政政策です。市場関係者は財政政策が必要だと強く訴えていますが、今後もこれまで通り慎重に行うことになるでしょう。

建国75周年を迎えて

 中国では10月1日に国慶節、建国記念日で建国75周年を迎えます。これを控えて、さまざまな政策が打ち出されているところだと思います。
 9月25日には中国国営中央テレビが、極貧層などへの生活補助金が国慶節までに支給されることを報じています。これは4月に政府が発表したもので、1,547億元(日本円で約3兆1,000億円)の予算を、474万人いるとされる極貧層に生活補助金として支給するというものです。今後も、何らかの支援策が出てくるかもしれません。

結論

 しかし、たとえ追加の財政政策が発表されたとしても、根本的に問題の解決にはならないでしょう。財政政策を行えば一時的に中国経済が上向くことはあるかもしれませんが、それで中国経済が成長軌道に戻ることはないでしょう。結局、バブル崩壊の中で膿を出しながら、極端に悪くならないようにしているだけということになるでしょう。


ご参考

 中国人が資本を海外に移したい理由は、中国景気の低迷や国内に有望な投資先がないことだけでなく、監視社会から逃れたいという理由もあります。しかし、中国人が海外にお金を移したいと思っても、それを受け入れたくない国も多く、海外の銀行に口座を作るのは簡単ではありません。

もしも人民元が変動相場制に移行したら

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