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アメリカの住宅ローン債務不履行急増問題


 アメリカの住宅ローンの債務不履行がリーマンショックの水準まで増加してきています。これにより、リーマンショックの再来という懸念が浮上しています。住宅ローンの債務不履行のデータやリーマンショックのきっかけになったサブプライムローン問題、そしてリーマンショックの再来にはならない要因について解説します。

住宅ローンの債務不履行について

 まず、住宅ローンの債務不履行のデータから説明します。

MBS(不動産担保証券)について

 連邦住宅抵当貸付公社(フレディマック)が提供している住宅ローンの債務不履行の発生率が上昇しています。フレディマックは、リーマンショックの時によく名前を聞いたところで、住宅ローンを引き受けてその債券をMBS(不動産担保証券)として投資家に販売している機関です。

 シリコンバレー銀行が破綻に陥った原因の一つとして、運用資産の価格下落が挙げられています。その運用商品の一つにMBS(Mortgage-Backed Securities:日本語では不動産担保証券)があり、MBSの価格下落が破綻の一つの要因となったと言われています。

シリコンバレー銀行破綻の振り返り

サブプライムローン問題について

 リーマンショックのきっかけになったサブプライムローン問題は、このフレディマックを含む複数の機関が発行したMBSが問題となりました。サブプライムとは、信用力の低い人々に大量の住宅ローンを貸し付け、それを束ねた債券を高評価の債券として販売したものです。見かけ上は魅力的だが、中身は脆弱な証券化商品を世界中の投資家が買い漁り、それに多くの人が気づくと価格が暴落するという事態が起こりました。これがサブプライムローン問題で、これらの証券化商品を大量に保有していたリーマンブラザーズが破綻し、リーマンショックが起こりました。

住宅ローンの債務不履行の割合について

 現在、このフレディマックが提供する住宅ローンの債務不履行の割合が、2008年のリーマンショックの時の水準よりも高くなってきているという事実があります。これは、リーマンショックよりも債務不履行の比率が高くなっているということで、リーマンショックよりも深刻な事態になるのではないかという懸念が出てきています。

マーケットの現状

 リーマンショックの時は、住宅ローンの債務不履行が増えるよりも先にマーケットが急落していました。しかし、現在のマーケットではショックが起こっていないものの、住宅ローンの債務不履行の比率は上がってきています。これはどういうことなのでしょうか。

他の消費者ローンの債務不履行の増加

 また、住宅ローンだけではなく、他の消費者ローン、例えば自動車ローンやカードローンなど、住宅ローン以外の債務についても高水準になってきています。去年あたりから、これらの問題について心配する向きが強まっています。

マーケットの展望

 景気が悪化してきている兆しはあるものの、リーマンショックのような事態にはならないと見ています。その理由を説明します。

リーマンショックにならない要因①

 まず、リーマンショックのようにならない一つ目の要因は、住宅ローンの債務不履行の割合は確かに増加していますが、ローンの残高の水準がリーマンショックの前に比べて決して大きくはないからです。
 アメリカの家計債務のGDPは2024年3月時点で63.2%になっています。これはアメリカの統計局が発表しているデータです。リーマンショック当時、一番高かった時の家計債務のGDP比は2009年6月に98.2%になっていました。つまり、リーマンショックの時に比べると、家計債務はGDP対比で約3分の1まで減っていて、債務の残高が非常に少なくなっているということです。
 住宅ローンが債務不履行になっても、国内経済に与える影響が小さくなっているので、損失が吸収できなくなってしまう懸念は2008年当時と比べて小さくなっているということです。

リーマンショックにならない要因②

 もう一つ、リーマンショックのようにならないと見られる要因は、リーマンショックの経験などから、変動金利でお金を借りている人たちが減って、なるべく30年の固定など、金利上昇の影響を受けないようにしようと契約している人が多くなっていることです。
 また、住宅ローンを提供する時の審査も厳しくなっていて、リーマンショック前のように信用力の低い人にでもどんどんお金を貸すようなことはしていないというのがあります。だからこそ、家計の債務残高自体は膨れ上がっていなくて、むしろGDP対比で減っているわけです。
 
そうした対応もあって、去年からすでにリーマンショック前よりも住宅ローン金利が上がっていますが、ローンの返済状況は当時と比べて極端には悪化していない状況になっています。

リーマンショックにならない要因③

 加えて、MBSなどの証券化商品に投資している投資家がリーマンショックの時と違って、そうしたリスクを十分に理解して投資をしているので、MBSの中に組み込まれている住宅ローンに債務不履行が起こっても特別慌てることはないというのもあります。リーマンショックの時は信用力の低い人への貸付け債権が過大評価されていたことから投げ売りにつながったわけですが、今はそうしたリスクを認識した上で投資家は投資を行っているので、投げ売りにつながったりする可能性は低いでしょう。

金融危機と景気後退の違い

 上記が、リーマンショックのようなことにはならないと考えられる要因です。ただし、だからと言って何の心配もありません、アメリカ経済は全く無傷です、力強いですとそういうことが言いたいわけではありません。
 景気後退というのは経済成長率がマイナスになることです。一般的にはGDPの成長率が2半期連続でマイナスになると景気後退ということになります。一方、金融危機というのは金融システムの不安や金融機関が連鎖的に破綻する懸念が生じたり、金融市場が機能不全に陥ったりして経済危機を招くことです。
 
金融危機が実際に起こると、景気後退はほぼ免れないですが、景気後退は必ずしも金融危機を伴うものではありません。

まとめと今後の展望

 この件で金融危機になることはないと思います、と説明すると、景気後退もないと言っていると思われる方がいますが、これは明確に分けて解説しているつもりです。ますますアメリカの景気は悪くなっていく、そういうことだと私は見ています。
 この住宅ローンなどの状況悪化は景気後退を表している可能性があり、FRBも慎重に見ていく必要があるとしています。


ご参考

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