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め
2016年9月16日 02:21
雪解けのころ、川面に映るお月さまを、そっと掬い取る。新鮮な水をたくさん吸ったお月さまは、ずっしりと重たく、鼻を近づけてみると甘い香りが溢れ出しているのが分かる。周りについた水分をよくふき取って、お砂糖をたっぷりと敷いたお鍋の中にそっと置く。さらにお砂糖をふりかけ、小さな火でじっくりと煮込む。しばらくすると、お月さまの中身が溶け出してお鍋に広がりだす。辺りはあっという間に甘い匂いに包まれ、かき回す
2016年3月25日 08:37
「もし、お嬢さん」 空から降ってきたのは、どこか聞き覚えのある声だった。か細い糸をたぐり寄せるように、私は自分の記憶をたどる。けれどその声が誰のものだったのかなかなか思い出せない。 「もし、お嬢さん。泣いているのですか?」 答えにたどり着く前に、また声が降ってきた。綿菓子のようにふわりとしているけれど触れれば溶けてしまいそうなほど繊細な声。 しゃがみ込んでうずくまっていた私は
2016年2月23日 22:12
つむっている僕のまぶたを、夜が優しくノックする。 そんな日は何度寝返りを打っても、星の瞬きにそっと耳を傾けても、意識は冴えたままだった。 時折こんなふうに眠れない夜が僕の元を訪れる。身を縮込ませながら両肩をさすり深く呼吸をすると、乾いた空気が喉に入り込んできた。もうタオルケットだけで眠るのは心もとない。 夏なんていつの間にか消滅してしまった。ひっきりなしに鳴いていた蝉の声も、触れ合え
2015年11月7日 17:05
「珈琲が苦手な人でも楽しめる喫茶店があるよ」と、僕にこっそり教えてくれたのは、同じバードサークルに入っているマリコだった。その時「良ければ僕と一緒に行かない?」と実に自然な感じで彼女をデートに誘えばよかったな、なんて後悔しながら、教えてもらった喫茶店に僕は1人で足を運んだ。 喫茶店は「とこやみ喫茶」と言って、木製の黒い看板が目印だった。窓が夜空をかたどったステンドグラスになっていて、外からは
2015年9月19日 04:29
目を覚ますと、外気は気持ちの良いくらいひんやりとしていて、窓の外では、やはり雪が降っていた。ベットから両足を少しずつ出して、昨日寝る前に脱いだはずのスリッパを探したのだけれど、なかなか見つからない。意を決してフローリングの床に降りると、冷たすぎて一気に目が覚めた。すぐに靴下を履いて、紺色のカーディガンを羽織る。自分の息が白く色づいていることに気づき、マッチを擦ってストーブに火を灯した。手をさすりな
2015年9月13日 16:38
祖母が倒れたという知らせをうけてから、急いで仕事を片づけて、飛び乗った新幹線は最終だった。窓から見える景色は真っ暗で、満月が異様に明るかった。思えば、祖母とはもう20年ほど会っていない。最後に会ったのは確か私が小学生の時、母が腰のヘルニアを悪化させて手術する事になったので、夏休みの間だけ祖母に預けられたのだ。祖母はよく笑う人で、6羽のニワトリと一緒に暮らしていた。毎朝、ニワトリが産んでくれる卵を回
2015年9月3日 10:34
あまりの暑さに、冷凍庫で凍らかせておいたお月様をすり潰す。側面はパキパキと割れるような音がたち、中は生クリームのように濃厚でやわらかい。すり鉢でお月様をペースト状にしてゆくと、額にじんわりと汗がにじみだしてきた。それと同時にキッチンには、お月様の香りが立ち込めていて、爽やかでふんわりと甘いにおいが鼻をかすめる。その中に糖蜜を加え、更に練乳をたっぷりと混ぜ込んで、それをアイスキャンディーが作れる容器
2015年8月30日 23:38
いつもは騒がしい学生寮も「星祭り」の夜は静かだった。喉の風邪をこじらせて寝込んでいる僕に気をつかいながらもルームメイトは年に一度のお祭りに早々と部屋を出て行った。喉の痛みで眠ることもできず、静寂で心を弱らせてはいけないと思い、ラジオをかけた。ぼんやりと横たわっていると部屋のドアがノックされ、僕が返事をする前に誰かが入ってきた。見ると、普段はあまり喋ったことのないクラスメイトだった。僕は非常に驚いて
2015年3月20日 19:27
満月をビスケットほどの厚さにスライスして、チーズケーキの横にそっと添える。採れたての満月なので、まだ薄ぼんやりと輝いていて、見ているだけで心地が良い。発光する満月を眺めながら、濃厚なチーズケーキを十分に堪能した後、それを1口かじると、口の中全体に爽やかな酸味がふわりと広がって、チーズケーキの余韻と混ざり合い、その絶妙な味に思わず笑がこぼれ落ちる。滑らかな舌触りを楽しみ名残惜しく飲み込むと、うっとり
2015年3月25日 23:29
まず空っぽのミキサーの中に水を入れて、そこに14番目のお月様を一欠片浮かばせる。10秒ほどミキサーを唸らせ、蓋を取って覗いてみると、甘い匂いを放つビー玉ほどのお月様が数個ミキサーの中を漂っていた。それらを割らないように、慎重に、清潔なタオルの上に転がして、1日太陽の光に当てるとそろそろ食べ頃。自分の好みにブレンドされたカクテルに、陽の光を浴びて煌々と輝く月を泳がせると14番目の月のカクテルが出来上