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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第12話

三月二十六日(火)

 モグラの言うイグアナ地区ぬるま湯事件の展開は、あれから熱を帯び、深夜にまで及んだ。
 調子にのって普段飲まない酒を飲み、遅くまで話した疲れは三日経ってようやく抜けた。

 モグラの描くサスペンスというかファンタジーは整理するとこうだ。

 下水道には流さない。
 中和もしない。
 土地は売らない。
 三年間で当初想定していた土地の売却代を捻出する。

 その夢物語には、どうやら一つの輪っかがキーとなるらしい。

 事件現場からカーブばかりの道路を500m進むと冠水箇所があり、交差点をさらに突っ切って200mくらい行った先に小田原厚木道路という有料道路がある。トキ家の所有する土地は、今説明した700mあまりの道路の南側に面した耕作地一帯である。一帯と言っても、その中には分家の分家の今は縁のなくなった家が三軒あり、これは例外だ。この三軒の家屋はだいぶ古いが敷地は広い。 

 あともう一つ、トキ家の所有ではないのが事件現場から一段下った先にあるイグアナ福祉館だ。ここはイグアナ地区の集会場で、三十人くらいが入れる木造の平屋であり、市の避難所にも指定されている。祖父が若い頃に土地を寄付して建設された。現在の所有者は市だが、管理は近隣の住人が月に一回集会する際に掃除する程度の自助で成り立っている。

 イグアナ福祉館の裏にはトキ家の畑が一反あり、その裏にトド川という農業用水路が流れている。

「福祉館の排水は裏の畑の地中を横断してトド川に接続されていたハズだ。」と、モグラは言う。
「下水道の整備に伴い、その管は要らなくなって撤去されたはずだが、用水路の側面に直径10cmの塩ビの管が頭だけ残っているハズだ。」と、言う。

 モグラの言うファンタジーは一つの塩ビの輪っかを見つけるところから始まるらしく、見つかったら続きを話すつもりらしい。

 モグラはまた肩書きが増えたと言って喜び、
「今度からは、あれだ。あの賢者の名前で呼びたまえ。あれだよ。あれ。なんなんだっけな。」と言った。
 あの賢者とは、指輪を巡る争いを描いた長編ファンタジーで出てくるキャラクターのことらしいが、映画化されたのも中学生の頃で、私も名前を思い出せず、なんともモヤモヤが残る夜だった。

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