《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第11話
三月二十五日(月)
環境対策課の職員は下まつ毛が長い。パシパシとまばたきをしながら奥歯ですり潰すようにあれこれボヤいている。まるでラクダだ。
別件の帰りに車を走らせながら様子を見るつもりだったラクダは、たまたま私と目があってしまったので、降りて来たらしい。水質成分分析は専門機関の職員に既にサンプルを採取してもらっており、結果は一週間後になることを伝えたら、今回は正式に来たわけではないので詳しくは聞かないと言われた。
ラクダは中和装置の中を覗きながら、
「ゾウ山だったら、、、」だとか、
「足湯だったら、、、」だとか、
水面に浮かんでは消える炭酸ガスの気泡のように呟いているので気になっていろいろ聞いてみることにした。
ラクダはカピバラ市のヘラジカ地区の農家の生まれで、郵政省、今の郵便局に官僚として就職予定だったが、長男のため父親の反対を受け、地元の市役所に勤めることとなった。これまで、戸籍を扱ったり、こどもサイエンスミュージアムで実験ショーをしたりといろんなことをしてきたが評価はされず、同期はみんな課長以上だが自分は管理職になれていない。と、ボヤく。
ヘラジカ地区には温泉宿が一軒あったが、コロナのせいかなんなのか客足は減る一方で、最近畳んでしまったと教えてくれた。
「湯がゾウ山に出ていれば儲かっただろうに。」と、言う。
「足湯なんか今流行りだろうし。」と、ボヤくが、今はサウナだろうと思う。サウナも一時の盛り上がりは落ち着きを見せてはいるが、森林浴で外気浴なんて最高だろう。
ヘラジカ地区の温泉もpHが10程度であったことから、同じ地下水脈で成分も同じであろうし、そう心配する必要はないんじゃないかと教えてくれた。
冠水も車の通行には支障はないが、数名ではあるが小学生の通学路になっている関係で学校を介して市役所に苦情が来ているということも教えてくれた。
なんにせよぬるま湯の成分次第だ。下水に流せないほど汚濁していたらどうしようか。
ラクダのように誰かのせいにして生きていければいいのだが。
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