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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第10話

三月二十四日(日)

 入居はすんなりと終わった。

 ジンベエザメがクレーン付きのトラックを置いて、今日新たに乗って来た商用バンは、綺麗に整理整頓されていて、トランクにはポリタンクと測量器具と工具箱とコンテナボックスが一つだけ。窓には安全帯のハーネスやヤッケがハンガーでかかっているので、トランクを開けるまで中を見れなかったが、ここまで綺麗だとは思わなかった。

 後部座席には布団とマットレスが畳んで置かれていて、運転席を倒せば、仮眠もできる仕様らしい。

 なので、寝具とコンテナボックスだけ部屋に運んでおしまいだった。

 部屋は長いこと使っていなかったので、納戸と化していて、自分の節目のお祝いとしてモグラを始めとした友人らがメッセージを寄せ書きしてくれたサッカーボールやら、父の趣味のレコードやら時計やらがあり、とりあえず二階の部屋に何も考えず移動した。二階は二階で全室ベッドがあるし、布団を敷くなら畳張りのこの部屋だろうと思ったが、思ったよりも混沌としていた。最後に運んだのは、倒れるだけで腹筋ができるという器具だ。隣にはダンベルもあり、母が筋トレルームにでもするつもりだったのか。そこから混沌が始まったようだ。

 窓際にある長机は一人で運び出せず、ならばと椅子を置いておいたが、ジンベエザメはありがたいと言っていた。

 大容量のナイロンのビジネスバックからPCを取り出し、コンテナボックスから小型のプリンターを取り出して、作業机にしていた。

 自分は、土地に縛られている。住む場所、働く場所にとらわれないジンベエザメの生活に少し憧れていた。

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