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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第27話

四月十日(水)

 市役所には何も言わないでいるつもりが、市役所の方からやってきてしまった。

 カピバラ市のロゴマークが入った市役所の軽ワゴンが母屋の前に急に止まって、また何かトラブルかと思ったら、ラクダだった。

 朝顔のタネとプランターとSDGsのロゴが四つも配置されたA4カラーのパンフレットを持ってやって来てくれた。緑のカーテン作戦といって、夏場に室内の冷気を保つことを目的に窓の外につる性の植物を繁茂半もさせることで、日光の直射を防ぎ、葉の蒸散作用で冷気を保つことを目的としたサステナブルな取り組みだ。無料で種を配り、プランターは貸し出ししているらしい。

 しかし、熱源といえば湯を、50L大鍋三つで炊く釜戸ぐらいで、屋根はないし、もちろんエアコンもないんだから、省エネするエネ自体が、原始的な火しかない。とはいえ、藤棚ふじだなを作るなら、何か草木が絡まってないと日差しも遮れないだろうと、ラクダが持って来てくれた。

 このエネルギー問題については、以前ジンベエザメになぜこうしたのか聞いた。釜戸ではなく給湯器があれば楽だし、藤棚ではなく屋根があればいつでも入れると。そうしたら、

「屋根も給湯器の基礎も建築士さんが設計しないといけない。しかも、その設計図やら計算書やらを役所に確認取らないといけない。そしたら排水の経路もバレてしまうし都合が悪い。」

 そう教えてくれた。

 ラクダは、「アルカリ性だから青色に咲きそうだ。」と言っていた。そうなったら色の答え合わせに日帰り入浴に来てくれるらしい。
「ヘラジカ地区にあった温泉宿も日帰り入浴をやっていて、よく通っていたんです。」と、懐かしんでいた。

 続けてラクダに言われた。

「旅館業として水濁法すいだくほうの特定施設の届出をしたんですね。よかった。」

 聞き馴染みがなく、うやむやな返事をしてしまったが、ジンベエザメが後ろの方で大きくうなづき、ラクダは安心して帰っていった。

「無駄な紙は燃やすに限る。インクが多いからうってつけだ。」
 そう言ってジンベエザメは、パンフレットを釜戸に放り込んだ。

 水濁法。特定施設。

 トド川への排水はやっぱりいけないことなのか。心のどこかでブスブスと燻っていた不安が、急に燃え上がり広がっていった。

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