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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第47話

五月一日(水)

「大敗だった。」と、言って悔しそうにしている。

 今朝までジンベエザメらが宿泊していた四部屋全てを掃除するので、昼からモグラを呼んだが途中で飽きたのか、別室でテレビをつけて遊んでいる。
 どうやら衆議院議員補欠選挙をテーマとして扱ったワイドショーを見ているようだ。

「モグラには関係ないだろう。今は掃除をやってくれ。もっと面白い番組を見よう。」
 と、言ってリモコンを取り上げたがチャンネルを一周して結局戻ってきてしまった。もっとこういう時に当てはまるマシな番組はないのか。

「関係ないと言ったな。関係ないと思われるようなことも忸怩じくじたらなければならないと思わないのか。それが人間だろう。」

 逆に怒られてしまった。モグラの好きなサン=テグジュペリの「人間の土地」の一節だ。

「今は、マンチカン議員とクロサイ議員が塩害について真剣に喋っているんだ。」
 と、言っている。
「きっといい案がでるんだ。俺も考えろ。考えるんだ。」

「モグラ、モグラ。それは幻聴だよ。」

 テレビの画面には国会議事堂の前にキャスターが立っているだけで、議員さんは映っていないし、この時期は議事堂にもいないはずだ。

「社会の建設に、まずは掃除という形で加担しておくれ。」
 と、言ったら、モグラは嬉々として立ち上がり、
「そうだ、そうだった。」
 と、掃除を始めた。

「あと、明日、病院に行くんだ。主治医のところに行ってきな。」

 モグラは統合失調症である。その患者さんは、日本国内では百人に一人程度の割合でいるが、その重さや傾向は様々で、他の病気を併発している人もいる。
 メンタルヘルスへの理解は、友人である私にも時に難しく、その他大勢の集団に求めるのはもっと難しいだろう。
 スラッシャーというのも、職場に馴染めず、仕事が長続きしていない。ただそれだけのことだった。

 また、余興に関しても、結婚という友人の勝ち得た勝利を誇りにしたいと始めたもので、これだけは長く続いたが、結婚は勝ち負けではない。

 余興屋は一見、個性的な肩書きだが、中身はそういう感じだ。

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