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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第48話

五月二日(木)

「今日は、ここイグアナ福祉館にお集まりいただきありがとうございます。
 この問題について、まずは私なりの解法をみなさまに提案いたします。
 それは、このイグアナ地区に大規模排水処理施設を建設し、耕作のできなくなったこの土地一帯を調整地とするものです。施設で適正に処理された水は、ヒツジ川に放流いたします。
 驚かれているでしょう。残念ですがこれが私の精一杯の提案です。
 しかしこれでは今後、処理水が流れる地域で生活していただく方々がでることになります。
 その点が難しい。
 皆さんをないがしろにして申し訳ないが、その点が一番難しいのです。
 全ての調整が整った後、その地域つまりヒツジ川の下流の上ヤギ、下ヤギ地区の方々に説明会を開く予定であり、まずは調整段階として、このイグアナ地区からお話をさせていただいています。
 これは多額の工事費がかかるプロジェクトです。そのため、皆様からは汚染水の流域の土地、その土地、全ての寄付をお願いいたします。
 もちろん、代替地も用意しております。駅前再開発によって建設される予定のマンションはどうでしょう。お住まいの人数に応じて、部屋を割り当てさせていただきます。これは市長にも了解を得ております。
 上ヤギ、下ヤギ地区の方々にも、代替地を検討いたしますが、規模が規模なため、基本的には迷惑料として地区周辺のインフラ整備等を行う予定でおります。
 みなさまここまでよろしいでしょうか。
 まずはご意見を伺いますが、
 あらかじめお伝えすると、すでに対象となるヒツジ川の管理者である神奈川県、また、上ヤギ、下ヤギ地区の自治会長両名からこの方法について良い返事をいただいております。
 加えて、都市計画の大幅な変更が生じますが、その関係機関の長であるカピバラ市役所の都市部長、土木部長、下水道担当部長に加えて、危機管理担当部長からも内諾をいただいている状態でございます。
 ここにいるみなさまは、公害の被害者であり、心中お察しいたします。なぜなら下流に住む私も同じだからです。
 しかし、他方から見れば公害の発生場所として、イグアナ地区は他の地区に迷惑をかけているという、厳しい言い方ではございますが、そのような実情もございます。
 それを踏まえ、ここにみなさまの誠意を、まずはお見せしていただきたい。
 お願いいたします。」

と、上ヤギ、下ヤギ地区を代表する市議会議員がおっしゃった。

 地元への誠意や善意はもう祖父が見せている。ここを昔に寄付している。そんなこと、よそは知らない。

 それに危機管理担当部長は、調整池ができることでハザードマップでいう市南西の冠水危険箇所が解消し、逆に都合がいいはずだ。上ヤギや下ヤギ地区の人間もインフラ整備に伴い、田んぼが違う形で土地活用できるようになるかもしれない。

 よくできた話だ。

 土地を汚した罪人がその土地を追われる。ただそれだけの話だろう。

 などと思いながら立ち上がり、こう謝罪した。


「この土地を守ってきたみなさま、本当に申し訳ない。」

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