《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第49話
五月三日(祝)
日が暮れかけた畑の真ん中を、モグラと歩いている。
二人でいつもと同じように気分転換に散歩をしていたが、モグラはもう歩くのも精一杯という感じだ。
ご飯を食べているか。
よく寝れているか。
薬を飲んでいるか。
通院はできているか。
それとなく聞く。
早く元気になってほしい。
今のモグラには医学的な処置が必要だと思う。
早く病気が軽くなってほしい。
モグラは立ち止まり、話しだす。
「病気がいけない。病気がいけないというけれど、それも僕なんだ。
いや、こんな僕だから周りに迷惑をかけて嫌われ者になり、その苦痛で病気になったとも言える。
病気はトキの言う僕の個性なのかもしれない。
トキは僕の良いところを見てくれる。だから個性というけれど、地元であるカピバラ市も他の国の人も法律だってなんだって、社会通念ってやつが僕を否定する。
これは障害って言うんだ。
周りや社会の仕組みが僕に障害となるわけでも、僕が生きる上で普段みんなができることができないってことが障害ってわけでもない。
僕は、あのぬるま湯のように、どっかから湧いてきてみんなに迷惑をかける障害なんだ。」
いつの間にかうずくまり、泣きながらそう喋るモグラを見て、何も言うことができなかった。
モグラは、「障害じゃなくて公害か。」と小さく笑い、こう続ける。
「ぬるま湯は止まらないんだよ。ぬるま湯は。」
そうしてまた何か思いついたように笑っていた。
普段なら葉桜となった芝桜が、青々と群生しているのであろう土手のはずれに、季節外れのピンク色の芝桜が一輪だけ咲いていた。
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