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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第63話

六月十日(月)

 どっかで見たことあるぞ。と、思ったら長崎の画像だった。

 今日はクロヒョウがやってきて、「トキ、先日は同意してくれてありがとう。」と感謝を述べにきてくれた。
 あれからクロヒョウは、アロワーナ内部で話を進め、市役所に概略の説明をしに行く段階となったことを伝えてくれた。その時、見せるつもりの資料がこちらで、これでよければ市役所に提出したいということだった。

 画像参照元は、長崎スタジアムシティの画像である。これは、長崎を本拠地とするJ2クラブ、V・ファーレン長崎のホームスタジアム建設と、それに付随してスタジアム周辺にアリーナ、ホテル、商業施設、オフィスビル等を作る大規模プロジェクトの完成イメージ図である。六年前に構想が始まり、今年の十月にはサッカー専用スタジアムの柿落としがされる予定だ。
 サッカー専用スタジアムでの観戦はサッカーファンの憧れだ。

 場所も長崎駅前から徒歩で十分程度の好立地であり、長崎駅とカピバラ駅を比べては悪いが、駅からの距離としては同じくらいだ。土地面積は約8ha。それだけの土地を確保できたのは、このプロジェクトが長崎駅前の工場の解体に伴う土地活用事業に採択されたからだ。

 土地はある。むしろその、倍はある。

 トキ家は、この一連のぬるま湯騒動で説明した土地の他に、カピバラ駅からトラ急小田原線で愛甲石田駅に向かう間の広大な耕作地帯も所有している。

 西はトラ急線の沿線。
 北はヒツジ川、
 東は小田原厚木道路、
 南は市道2号線に面した小高い丘の北側の麓。

 その間に20ha以上の土地があるが、都市計画の法律で原則的に建物を作れない区域に定められているため、田んぼにしかしていない。

 ここはトド川よりも上流にあたり、塩害とは関係ないが、所有している土地を全てクロヒョウに説明したら、「そちらの方が都合がいい土地だ。」と言っていた。ちなみにこの土地はカピバラ市役所も目を付けていて、一連の事業で必要になるという理由で寄付を迫られられている。

 長崎スタジアムシティの総工費は、900億円にも上るとされている。それだけのお金を用意できた理由は、結局は、親会社の大きさってやつだ。V・ファーレン長崎の親会社は、あのジャパネットグループ。スポーツへの貢献の大きな企業だ。チームの社長はジャパネットの取締役が勤めるなど熱の入れようがすごく。バスケットボールチームにも力を入れており、バスケの方は昨年一部リーグに昇格した勢いに乗るチームである。

「結局は金が課題になりそうだが、土地が寄付されることは大きいし、西へ東へかけずり回るのは慣れている。」と、クロヒョウは言っている。

「頑張りたい。だから、協力してほしい。」と、頭を下げられた。

 その情熱に感動した。

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