物言わぬ守護者 #シロクマ文芸部
風車は穏やかに、しかし力強くその羽根を回し続けている。
風車の前には一体の像があった。風車に手を伸ばす姿をしている。その像は時の経過を映し出してはいたが、その細工の精緻さは疑いようがなかった。
隠れた農村に立つ堅牢な風車。ひっそりとした村に似つかわしくなくも見える。
その風車を観光に使えないかと考えた僕は、土地開発の交渉のためにこの村を訪れた。ただ、どうやってこの村にたどり着いたのかは今ではひどく曖昧だ。
交渉はうまくいかなかった。
あの風車には不思議な力があると村の長は言う。
無風でも強風でも、常に決まった速さで動いているらしく、村人からは守り神のように大事にされている。
長老は、僕が災いをもたらす異物だと言い、「あれは以前にも村を守ってくれた。今度もきっと守るだろう」とそれ以上は取り付く島もなかった。
長老だけでなく村全体が僕を歓迎しなかったが、それでもどうにか数日滞在することにした。
立派な風車の脇に建つ小さな小屋。そこにぺちゃんこの布団が敷かれた。昔はこの風車の守り番が寝泊りしていたのかもしれないなどと、ぼうっと思いを馳せる。
翌朝、まだ夢の中にいた僕の耳に轟音が届き、驚いて外へ飛び出すと、大きな音を立ててゆっくりと風車がその羽根を止めた。
その様子をぼんやりと眺めるだけの僕の頬を、風が撫でていく。そうだ、この風車は無風でも動いているはずだ。どうして止まったのか。
長の元へ行こうとして気付く。村人も止まっている。
歩いている人、洗濯をしている人、畑を耕している人、眠っている人。
皆、そのままの姿で動きを止めている。
恐ろしくもあったが、ひとつの考えが浮かぶ。
風車を直せば村人たちの信頼を得て、交渉が進むかもしれない。
そんな思いから、風車を直すことにした。
この風車は単なる風車ではないだろう。何の知識も技術もない僕に直せるだろうか。いや、この風車は何か特別なものであるからこそ、この村に手がかりがあるのかもしれない。
村人が動かないのをいいことに、村中を勝手に調べ回った。
そして数か月かかったが、ついに風車は再び動き出した。
風車が大きな音を立てて羽根を回し始めると、村人たちも動き出した。まるで何事もなかったように。
しかしその時、僕の身体は固まり始めた。足元からじわりじわりと、動かなくなっていく。
どうして、どうして、
これが風車の力なのか、
よろよろと風車に手を伸ばすが、もう遅い。
視界の端には風車の前に建つ像。僕はぞっとした。
あの像は、かつては人間だった。
僕と、同じ——
村人たちは僕のことを忘れ、日々を平和に暮らす。
風車の下で、二体目の像になった僕は永遠に村を見守っている。
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2024.04.14 もげら
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