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ショートショート

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シロクマ文芸部に参加して書いたショートショートや、単発で書いたショートショートです。 ※ すべてフィクション。 ※ ジャンルはごちゃまぜ。 ※ 一話完結です。ショートショート同士… もっと読む
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【目次】 ショートショート 【マガジン】

ショートショートのマガジンを作りました。 ここは目次のようなものです。随時更新していきます。 ◎ すべてフィクションです。 ◎ ジャンルはごちゃまぜです。 ◎ 1話完結です。ショートショート同士の繋がりはありません。 ◎ 年齢指定になるような極端な描写はありません。 順番通りに読むも良し、気になるタイトル、お題から読むもよし、ランダムにえいやっと読むも良し。 好きなように楽しんでもらえたらいいなと思います。 ▶ シロクマ文芸部 企画参加ショートショート▶ 2023年

春への逃避 #シロクマ文芸部

 春の夢には終わりがない。  目が覚めてもまだ夢の中にいるみたいに。  ずっとぽかぽかとしていて、どこかふわふわとしている。  朝になってベッドから起き上がって、朝ご飯を食べて、学校へ行く。  授業を受けて、友だちと笑って、家に帰る。  ご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドに入る。  そうしてまた朝になって、ベッドから抜け出す。  窓の外は澄んだ青。  太陽の光はキラキラと新緑を照らしている。  同じような毎日でも、春はずっと夢の中にいるみたいだ。  今までこんなにも

花吹雪のいたずら #シロクマ文芸部

 花吹雪が舞い散る道を通勤できるとは思ってもいなかった。  就活で訪れたときはもちろん、引っ越してきたときにも花はついていなかった。  それが、こんなにも綺麗な桜並木だったなんて。  春の強い風に乗って花びらがあちこちに舞う。  それは雑然としているようで、けれどとても幻想的で美しい。現実世界とは切り離されていると錯覚しそうだ。  桜はすぐにでも散ってしまうだろう。  残されたわずかな桜を惜しむように、心なしかゆっくりと歩を進める。  学生のときに友だちと見た桜とは少し

物言わぬ守護者 #シロクマ文芸部

 風車は穏やかに、しかし力強くその羽根を回し続けている。  風車の前には一体の像があった。風車に手を伸ばす姿をしている。その像は時の経過を映し出してはいたが、その細工の精緻さは疑いようがなかった。  隠れた農村に立つ堅牢な風車。ひっそりとした村に似つかわしくなくも見える。  その風車を観光に使えないかと考えた僕は、土地開発の交渉のためにこの村を訪れた。ただ、どうやってこの村にたどり着いたのかは今ではひどく曖昧だ。  交渉はうまくいかなかった。  あの風車には不思議な力が

感情の証 #シロクマ文芸部

 卒業の証であるICチップが盗まれた。  あれがなければ――  身体にわずかながら震えが走る。  まったく、こんなときには優秀であることが厄介なだけだ。  震えている場合ではない。恐れている場合ではない。  あれがなければ私は――  処分される。  いつ、どこで、誰に、盗まれたのか。  そんなことは私にかかれば問題にもならない。記憶を辿ればいいだけのことだ。  もっとも、私から盗み出すことができるのはごく限られた範囲だろう。大体の予想はつけられる。  しばし目

40文字の「春と風」 #シロクマ文芸部

春と風はいつも大切な出会いを運んできた。 春と風はいつも大切なひとを奪っていった。 #シロクマ文芸部 企画に参加しました。 ▶ 最近の シロクマ文芸部 参加ショートショート: ・味のしないチョコレート 2/8 お題「チョコレート」 ・香りの虜 2/15 お題「梅の花」 ・また4年後に、 2/22 お題「閏年」 ▶ 【マガジン】ショートショート: ▶ マシュマロ投げてくれてもいいんですよ……?! 感想、お題、リクエスト、質問、などなど 2024.03.03 もげら

また4年後に、 #シロクマ文芸部

 閏年にしか開かない扉があるという噂を男が聞いたのは、偶然であり幸運だった。  都市伝説やオカルトを題材としたブログを細々と書いている男にとって、ちょうどいいネタだった。  調査を始めると、意外なことにその扉はいつも男が利用している図書館にあるという。真相を探るべく、図書館へと足を運んだ。  しかし図書館へ来たものの、いきなり噂のある扉について聞いたりして教えてくれるだろうか。図書館員は知っているのか。信じてもらえるのか。  本を探すフリをしながらブラブラと館内を歩いている

香りの虜 #シロクマ文芸部

 梅の花の香りは人を惑わせる――  夢を見た。  景色はどこまでも白だった。足に伝わってくる感触も、土なのか板なのか、それともコンクリートか、それさえもわからない。  ただ、どこからか甘い香りが漂っている。  方向もわからないままに、それでも甘い香りに導かれるように歩を進めていくと一本の木が見えた。淡いピンクの花に飾られている。梅の木だ。詳しくもないのに直感的に思う。  思わずうっとりとしてしまう香りを、目を閉じて深く吸い込む。  目を覚ましても、まだ夢の余韻に浸っていた

味のしないチョコレート #シロクマ文芸部

 チョコレートが好きだ。  子どもの頃から、ずっと。  小学校の遠足のお菓子にはもちろん持って行ったし、高校時代はこっそりカバンに忍ばせた。  部活や勉強の合間に食べるチョコレートは、特別なものを食べている気分にもなった。  社会人になれば通勤カバンの中と、会社のデスクに常備した。  遊びに行くときだって、いつもチョコレートを持ち歩いていた。  嫌なことがあったときには少し苦く感じたこともあるけれど、そのあとには元気が出た。  良いことがあったときには、嬉しさも美味しさも

重なる青写真 #シロクマ文芸部

 青写真を描けと言われても困る。  中小企業どころか、弱小企業だ。  けれど、そんなところが僕は気に入ってさえいる。  僕には野心などない。このままでいいし、このままがいい。  だから、社長が新しいプロジェクトを突然発表したときには驚いた。  大企業と提携して宇宙開発に参入すると言う。  そして、あろうことか僕にそのプロジェクトの青写真を描けと命じたのだ。  なぜ僕なのか。取り消してくれと言いたいが、弱小といえど社長は社長。  職を失いたくはない。  うまくいけば、収入が

冷たい指先 #シロクマ文芸部

 布団からはみ出している指先が視界に入った。  薬指にはめられた指輪が、窓から入る朝日を受けて光っている。  シンクに寄りかかったままで喉へ流し込んだコーヒーがやけに苦々しい。  指先から手元のコーヒーへと視線を移して、ぼんやりと思う。  昨日までと同じはずだ。こんな味だっただろうか。昨夜、妻と喧嘩してしまったせいだろうか。  昨夜の喧嘩を思い出すと、口内にさらに苦みが広がったような気がする。  それ以上飲む気がなくなり、一口飲んだだけのそれをシンクの中へ置いた。  そう

雪化粧の時代 #シロクマ文芸部

 雪化粧とは、降り積もった雪が野山や街を覆い、化粧をした白く美しい様子――、  それが僕の常識だった。  ところが、だ。  常識というのは時代とともに移り変わるものでもあるのだ。  すれ違う女子高生を見てぎょっとした。  人の顔を見た反応としては失礼極まりないが、相手は気づいていないようでホッとする。友人らしき人物に大きな口を開けて笑っている。  僕は呆気にとられたまま会社にたどり着き、同僚に見たことを話した。  すると、彼も同じ経験をすでにしているらしい。思わず二度

最高傑作を求めて #シロクマ文芸部

 本を書くと決めた男がいた。  大学を出て就職し、結婚し子どもも授かったが、どこか満たされない思いを抱えていた。平凡であるということはそれだけでもありがたいことであるが、そんな人生に嫌気がさしたのだった。  必ず最高傑作を生み出すと決めた。  しかし、問題はどんな本を書くかを決めていなかったことだ。すでに世界には多種多様な本が存在している。  何がおもしろいのか。何を書きたいのか。  どんな本が最高傑作なのか。どうすれば最高傑作になるのか。    とにかく男はアイデアを

新規一転 #シロクマ文芸部

 新しい場所。  新しい服。  新しい靴。  新しいおうち。  新しい自分。  全部、ぜーんぶ、新しい。  新しいって嬉しい。  もちろん、古いものだって嬉しいことはあるけれど。  ううん、そういうことじゃあなくってね。  新しい、スタート。  ここからまた、始まるんだ。  ここがどんなところかはよくわからないけれど。  知らないことも、楽しいと思えるから不思議。  だって、私、死んじゃったから。 #シロクマ文芸部 企画に参加しました。 久しぶりにシロクマ