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重なる青写真 #シロクマ文芸部

 青写真を描けと言われても困る。
 中小企業どころか、弱小企業だ。
 けれど、そんなところが僕は気に入ってさえいる。
 僕には野心などない。このままでいいし、このままがいい。


 だから、社長が新しいプロジェクトを突然発表したときには驚いた。
 大企業と提携して宇宙開発に参入すると言う。
 そして、あろうことか僕にそのプロジェクトの青写真を描けと命じたのだ。

 なぜ僕なのか。取り消してくれと言いたいが、弱小といえど社長は社長。
 職を失いたくはない。
 うまくいけば、収入が増えるかもしれない。野心はなくとも、それくらいの打算はする。


 どうしたものか。

 宇宙開発、宇宙、未来、宇宙、宇宙――

 ぐるぐると考えてみても、アイデアは一向に浮かんでこない。
 手元に広げた紙には『宇宙』の文字。その周りには頭の中と同じように、線がぐるぐると書かれているだけだ。

 どうする。

 紙に書かれたぐるぐるをじっと見た。
 するとどうしてか、子どもの頃の記憶が蘇ってきた。


 僕は夜空を見上げて、その空の向こう、宇宙への思いを馳せていた。
 想像もできない世界が広がっているかもしれない。いつか、あそこへ行けるだろうか。
 そんなふうに思っていたときが、僕にも確かにあった。
 でもそれは、単なる遠い遠い夢でしかなかった。

 いつの間にか、そんな夢があったことさえも忘れていた。

 まあ、僕が宇宙に行くわけではないけどね、
 思い出した夢に苦々しい笑いが浮かびそうになる。


 そんなタイミングで、社長が僕のところへやってきた。

「調子はどう?」
「あー、はい、えー、正直にいうとあまり……」
 ありきたりな質問に曖昧に答える。
 正確にいえばあまりどころかまったく全然ちっとも進んでいない。よくこんな社員に頼めたものだ。
 目を泳がせる僕に、社長は素直で温かい笑顔を見せる。

「君なら、できるよ」

 たった一言と、その表情に、僕への信頼がはっきりと感じられた。嫌味や愛想ではないとわかる。

 なにかを見透かされたような気分にもなる。
 同時に、僕の中で、なにかが動き出すのを感じる。

「――やって、みます」

 まだ弱気な僕の返事に、社長はうんうんと頷くだけだったが、瞳には優しさが宿っている。


 僕には、どんな青写真が描けるだろう。
 このプロジェクトの青写真、それはきっと僕自身の青写真にもなる。




#シロクマ文芸部 企画に参加しました。

難しかった……!
ぐるぐるしたのは私のほうでした。
もうちょっとスパイス(?)が欲しかったけれど、アイデアが出なさすぎた。反省。


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読んでいただきありがとうございます。

2024.02.02 もげら

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