味のしないチョコレート #シロクマ文芸部
チョコレートが好きだ。
子どもの頃から、ずっと。
小学校の遠足のお菓子にはもちろん持って行ったし、高校時代はこっそりカバンに忍ばせた。
部活や勉強の合間に食べるチョコレートは、特別なものを食べている気分にもなった。
社会人になれば通勤カバンの中と、会社のデスクに常備した。
遊びに行くときだって、いつもチョコレートを持ち歩いていた。
嫌なことがあったときには少し苦く感じたこともあるけれど、そのあとには元気が出た。
良いことがあったときには、嬉しさも美味しさも倍増した。
友だちにあげて、友だちからもらって、友だちと分け合って。
中毒みたい、と友だちにからかわれることもあったけれど、それでも事あるごとにチョコレートをくれる友だちがいたことは幸せだ。
チョコレートはいつだって幸せをくれる。
当然、今もいくつかのチョコレートがバックパックに入っている。
「これだけあれば遭難しても大丈夫だね」と笑い合っていたのに。今じゃ笑い話になんてできやしない。
頂上からきれいな景色を見ながら友だちと一緒に食べたチョコレートの味を、一生忘れないだろう。
どうしてこうなったんだっけ――
今、大事に、大事に、ゆっくりと口内で溶けていくチョコレートの味なんてもう、しないも同然だ。
身体を寄せて隣に座る友だちも「ごめんね、ありがとう」と小さく呟いたきり無言のままだ。きっと彼女も今までそんな風に食べたことないくらい丁寧に溶かしているに違いない。
チョコレートの味はしているだろうか。
チョコレートはいつだって幸せをくれるはずなのに。
私の命はあとチョコレート何粒分だろう。
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2024.02.10 もげら
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