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禁断のあんバター

きっと誰にでもある“偏愛的おいしい”をこっそり聞いた時、胸がきゅーんと高鳴ってしまうのは、わたしだけだろうか。

あるシーンだけの特別な味、何度も何度も飽きずに食べてしまう物、自分だけのルール。

その人にしかない“偏愛的おいしい”は、とってもかわいくて愛おしい。

✳︎

やさぐれた帰り道。

どうしても食べたくなるあんバターサンドがあるらしい。そしてそれは、分厚いスライスバターがサンドされているらしい。

セカアカ山フーズ先生の授業で、同じクラスのゆみさんからその話を聞くやいなや、どうしても試してみたいという衝動に駆られた。

スーパーに行くたびに、「スライスバター」を探した。しかしどこを探してもない。スライスチーズかスライスチョコレート(そんなのあるんだ)しかない…。

「スライスバターはどこに売っているのですか…」

気付いたら、ゆみさんに連絡していた。

禁断のあんバターですね。おそらく普通のバター、あの塊のやつ、をスライスすればいいのだと思います。厚さは5ミリくらい、それに粒あんでした!」

(ゆみさんはいつも近所のサンドイッチ屋さんで買っているらしいのに詳細まで教えてくれました涙)

スライスバターは、恐らくこの世に存在しないみたいだ。あったら絶対、需要あるのになあ。気になって調べてみると、同じようなことを考えている人が結構いた。

眉ツバものだが、バターはただでさえ高級品。だから、これ以上コストはかけられないのでは、とのことだった。本当のところは、どうなんだろう。

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さて、「それならば!」と、塊のバターを買おうとした。

しかし塊のバターもない。バターが品薄になっている。困った。食べられないとなると、余計に食べたくなる。

スーパーに行くたびにバターコーナーをウロウロするが、「欠品のお詫び」と書かれたポップが、変わらず置いてあるだけだった。

そうして探し続けて、やっと(!)、念願の塊バターを発見!!!

いつもなら絶対に買わない高級バターと小豆を買って、足早に家に戻る。

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今回は、炊飯器で作った粒あん。

炊飯器で炊けるという耳よりな情報は、以前ユコさんが教えてくれた。

水と小豆を入れ炊飯→追加の水と砂糖を入れてもう一度炊飯で完成。少し水っぽくなったけれど、味はちゃんとおいしい。

普段買わない高級バターは、透き通った肌みたいな綺麗な色をしていた。

バターに、すーっとナイフを入れる緊張の瞬間。予想以上に柔らかく、ぐにゃんぐにゃんになって、途中で途切れる。何度やっても途切れる。仕方ないのでそのままサンドした。

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シベリアみたいな見た目。(6枚切りは分厚すぎたかな…)ぐにゃんぐにゃんになったスライス(?)バターはご愛嬌。

バターの塩っけとあんこの優しい甘さがたまらない。とまらない…。

溶けてないバターは、溶けたバターの何倍も強烈で、濃厚で、食べ終わった後もお腹の中で強烈な存在感を放っている。

食べれば食べるほど重たくなっていくわたしのお腹。なんだろう…この罪悪感。バターの贅沢食い、なんだか後ろめたい気持ち。

ふと、ゆみさんが最後に言っていた言葉を思い出した。

「通常は、バターはちょこっとがおすすめです。」

うんうん、そうだよね。これはやさぐれた時に食べたい背徳感たっぷりの食べ物だ。やさぐれた帰り道、やさぐれた勢いで食べるからいいんじゃないか。

それを、ただ、「おいしそう」、「食べたい」、と、食い意地が張った考えで、バターを探し回ってまで試した自分が、なんだか情けない…。(でも楽しかった)

✳︎

ちなみにわたしの偏愛的おいしいは、「一晩寝かせた母が作った春巻き」。パリパリじゃなくて、油や具材の汁を吸ったほにゃほにゃになったやつ。

夫に聞いたら、「ぎゅっと潰して、硬くなった給食の食パン」だそう。

偏愛的おいしいには、その人の個性がどうしても滲み出てしまう。

やっぱり、どれもかわいくて愛おしい。

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