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麗しの翡翠を求めて

11月の中旬、バンコクから足を伸ばして私たちはミャンマーに翡翠を仕入れに行っていました。ミャンマーといえば史上最高額のルビーに代表されるように昔から様々な宝石が出る産地で、良質な翡翠が採れる場所としても世界一です。今回は私の視点から見た翡翠についての色々を書いてみました。

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ミャンマーには鉱山とともに翡翠の集積地があり、原石からルース、ジュエリー加工までの一連の流れが一つのマーケットとその周辺で毎日行われています。加工機材は電動もありますがまだまだ足こぎもあったり、中には竹を使って通路で手磨きしている人もいるようなローカル感溢れる市場です。

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ここでの原石は小さめのものや端材などが多く、もっと高額な取引がされる場所はまた別にあります。が、私はそんな ”億単位の取引” はできませんのでここが身の丈に合っています。ちなみにインスタに書いていた通り原石からも加工をしていたんですが、なんと最終日の停電により仕上げまで出来ずに終わりました。その子たちは今日本で仕上げてもらっていますよ。

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ルースの買い付けは変わり種を混ぜつつ、初夏を思わせる淡いセージカラーを中心に。欲しい石は中身が入れ替わったりしないように封をしてオファーを書いて交渉を進めます。英語は全く通じません。

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その他にも市場の中を歩き廻って良いものがあれば仕入れます。ひときわ目を引く美しい少女に出会って思わずパシャリ。新作の翡翠ジュエリーは来年3月の展示会でお披露目です。今回もより多くの方々に翡翠の魅力が伝わればいいなあと思っています。

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ミャンマーはここ最近発展が目覚ましい途上国。2年前よりだいぶ道路が舗装されていました。バイクで移動する人が多く、どこでもタバコを吸っているので私は常にマスクをしていたいくらいの空気ですが、それだけ活気があるという事でしょうか。

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朝からマーケットの周りはバイクで埋め尽くされ、彼の雄叫びも車上から。

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動物たちも自由気まま。店番か営業妨害か、こんな光景は日常茶飯事です。

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この猫ちゃんは店の前で大きい方の粗相をしてさすがに怒られていました。

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さて話は変わって、なんで私がこのタイミングで翡翠を仕入れに行ったのかという話。単純に翡翠アイテムがが少なくなってきてしまったというのもあるんですが、実は一番の決定打は........

なんと X JAPANだったんです 笑!!

時として音楽はきっかけを与えてくれるものですね。展示会前に作業のBGMに適当にyoutube を再生していたところ、流れてきたんです、この曲が。曲自体は映画の主題歌でもあって耳にしたとこはあったんですが、初めて知ったんです、これが JADE   というタイトルだということを!

ちょうどその時はタイ行きの予定も立てなければいけない時で、最初はカンボジアあたりまでいこうかなーと考えていたんですが、一瞬にしてミャンマー行きが決まりました、なんだか呼ばれた気がして。その頃ちょうど同世代の若いクリエーターが翡翠や翡翠の色に着目しているのを目にすることも多くて、なんというか、点と点が繋がって線になった瞬間でした。

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Cause you are beautiful, your scars are beautiful. Like the jade.
あなたが美しいから あなたの傷跡が美しいから  まるで翡翠のように 

これは歌詞の一節。”翡翠のように美しい”ってとてもオリエンタルな表現だなって思ったんです。もし自分が言われるんだったらと考えてみても「ダイヤのように輝いてるよ」とか「真珠のように白いくて綺麗」とか言われるより「翡翠のように美しい」って言われた方がなんだか嬉しい。 凛とした透明感とツヤが女性そのものも比喩出来るのだとしたら一番憧れます。

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数年前私が翡翠のジュエリーが欲しいと思うようになったきっかけがありました。ある時中国の空港で飛行機を待っていた時の事。同じGATE で搭乗を待つ若い中華系の夫婦と小さな子供がいたんです。特に奥さんはモデルのようにスレンダーでお洒落。フライトに慣れているようでラフな格好でしたが、身につけているものは良いものばかりでした。

その彼女が指にはめていたのが大粒のアイスジェードだったんです。

質の良いものを知っていてそれをサラッと着こなせる彼女。そのリングも100万円は優に超えるだろうもので、それをスキニーデニム x シープスキンブーツ x オーバーサイズのニットというラフな格好に合わせていた、それがすごく格好良かったんです。

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そのスタイリッシュなアウトフィットは今まで私の中にあった"オールドファッションな翡翠" のイメージを一新しました。自分も身につけてみたいと初めて思えた瞬間でした。

いつか自分も似合うと思えるようになったら買いたい、と恋い焦がれていた氷のような翡翠。それは年齢だけでなく精神的な部分もあって、これまで何度も機会はありましたが、自分にはまだふさわしくないような気がして先延ばしにしてきました。この翡翠をMy First Jade にしたかったので、実は自分用の翡翠ジュエリーをまだ一つも作っていないのです。そしてやっと今回、買っても良いよ、と心のゴーサインが出ました。

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実はグリーンよりも産出が少なく、濃い緑の翡翠がミャンマーで発見されるまでは最も高貴なものとされていた白翡翠。2枚目のアイスジェイドも十分な魅力ですが、指に落ちた水滴のように透明感が全く違うのがお解り頂けると思います。この最高品質とされるガラス質のものは販売用には仕入れていないのですが、ご希望があれば次回仕入れの際に受けたいと思っています。

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翡翠がオールドファッションに感じていた、と書きましたがそもそも私たちの世代には身近ではなかったと思うのです。ダイヤ、ルビー、サファイアなどのように小さなメレーであってもプチジュエリーとして宝石感の楽しめる石と違って、翡翠はそんなに小さくしてしまったら全く魅力がわからない。

それに加えて近年、中国バブルと共に翡翠は投資対象となり価格がものすごい勢いで高騰しました。日本の史上価格を遥かに上回っているので国内に流通しづらい。個人ジュエラーが使うのは見かけても、大手ジュエリーブランドや雑誌などで翡翠を見かける事は殆ど無いですよね。

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そこから"自分的翡翠への挑戦" が始まったんです。翡翠は真贋も難しい石なので、長年取り扱っている方に比べたらまだまだ知識が足りない。でもきっと自分には逆にその人達にはない新鮮な感覚があるんじゃないかと信じて、ミャンマー、タイ、中国、と翡翠が集まる場所を回りました。

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2年間の構想、勉強、仕入れの期間を経て最初にリリースしたのがこのハーフベゼルリング。爽やかなグリーンが似合う初夏に発表しました。石そのものも楽しむことが出来るように覆輪を片側だけにしたデザインです。

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自分の新しいチャレンジは受け入れてもらえるのか、出すまではドキドキしていましたが、おかげさまでこちらは大変ご好評いただきました。今回の仕入れでは色味がややディープなグリーンを選び再生産しています。

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その他にもバイカラーやリーフペンダントなど、翡翠に対する先入観のある人には新鮮に、逆に何も知らない人には単純に綺麗!と思ってもらえたら、という思いで製作しました。こちらは今年の春に展示会で販売したドラゴンペンダント( SOUD OUT )。バイカラーの翡翠バーはコンテンポラリーな印象を創りつつ、彫りのモチーフは守護神となってくれる龍神を抽象的に表したものです。

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これは私たちが結婚した年、中国の家族を集めてささやかなパーティーをした時に、赤いドレスに合わせてつけた夫の祖母の形見の指輪です。地主だった祖母の家は文化大革命で突然全ての財産を奪われました。先生だった祖父は知識人とみなされその後家に戻ってくる事はなかったそう。

その時の話を聞くと信じ難いですがそれは実際に起こったことで、そんな家族の辛い歴史の中で唯一残った大切なジュエリーもまた翡翠でした。これは処理されている石で市場価値は低いですが、家族にとってはどんな高価な宝石よりも大切ですよね。

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翡翠は本物と偽物を見分けることが難しいとよく言われる石。似ている石も多いし、日本と中国での歴史が違ったりします。というわけで翡翠のことはあまり詳しくない方の為に基本的な知識を書いておきましょう。

英語でJADE ジェイドと呼ばれるものには2種類あります。
ジェダイト (硬玉)
ネフライト (軟玉) 
一般的に宝石質なのはジェダイト ( ヒスイ輝石 ) です。

そして処理の有無と種類によって評価の基準があります。
Aジェード  (A貨)  天然無処理  (表面の艶出しワックス加工は許容範囲)
Bジェード  (B貨)  漂白、樹脂含浸処理
Cジェード  (C貨)  染色

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今回仕入れた石たちの幾つかを口頭鑑別に出していましたが、天然ジェダイト、通常ワックス加工で上がってきました!つまりこのランク内でいうA貨です。逆に色味に疑いをかけていたが数点が全て有色ワックス加工と出たので、仕入れの際の見立ては100%大丈夫だったと一安心です。翡翠を専門で扱っている訳ではなく、まだまだこの石に関しての経験値は十分だとは思っていないので、自分としても自信になりました。

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こうして黒い背景で撮影すると翡翠の最大の特徴である艶がよくわかります。日本の書籍では日本での歴史を知ることが出来ますが写真が残念な場合が多い。一方ハイグレードな資料が圧倒的に多い中国の書籍だと、こうした写真ページでは"翡翠の部分だけ"にコーティングをかけて艶を強調しています。それだけその艶感が魅力で、手間をかけるほど翡翠が珍重されているのがわかります。

翡翠は知れば知るほどに魅力が解ってくる石だと感じているんですが、それは実際に質の良い石を、出来ればルースのままで、自分の目で沢山見ないと難しいと思うのです。来年3月に予定している展示会では今年よりも沢山の翡翠をご用意しますので是非見に来ていただけたらと思います。

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さて今月もあっと言うまにSELSHA のルース販売の日が近づいて来ました。平成最後の12月は、翡翠の他にホワイトガーデンやクォーツインクォーツなど、冬を感じさせるルースを掲載予定です。ほとんどの石はinstagram に載せていますので、12/15(土) 21:00〜 の販売開始前にはそちらでチェックしてみてくださいね。前回のnote も翡翠マーケットについて触れているので、是非合わせて読んでみてください⬇︎

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