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私的ジャズ論 歌ものジャズ <その1>避けて通れない1枚

今回はジャズはジャズでも、歌ものについて書きたいと思います。

ジャズの中で歌ものというのは少し異質です。何が異質かと言うと、別の記事で説明したように音楽としてのジャズは時代を経てかなり変化・進化していったのですが、歌ものジャズはほとんど変わっていません。歌自体の流行り廃りがあったり録音は今風に進化していますが、楽曲の在り方はほぼ昔のままです。

アーティストの熱のこもった個性的なアドリブを聴くのはジャズの楽しみ方の1つですが、歌ものにはそもそもアドリブ箇所があまり入っていません。原曲のメロディをアドリブで歌ってしまうものも無いことはないですが、普通はしません。楽器ジャズ(注:私の造語です)では一般的なメインテーマが終わってからのアドリブも歌ものにはありません(ロックのギターソロのように楽器のソロパートはあります)。

なので、歌ものジャズはかなりポップスに近く、原曲がジャズで好まれるものなのか?、バックバンドはジャズ畑のメンバーなのか?アレンジがジャズ風なのかぐらいでしかポップスと区別がつかないんじゃないかと言うのが私の考えです。

ジャズの歌ものと楽器ものとではファンも分かれがちです。楽器ジャズのファンの中には歌ものはほとんど聴かないという人も多いんです。私はたまに聴きます。今一つ体調が本調子でない時や気分が乗らない時に楽器ジャズはきつかったりするので笑、歌もので少しリラックスする的な聴き方ですかね。

そんな普段は楽器ジャズ好きな私が皆さんに聴いて欲しい歌ものジャズをいくつかご紹介します。

1つ目は歌ものジャズでは避けて通れないこれです。

Helen Merrill(ヘレン・メリル):Helen Merrill with Clifford Brown
                     (ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン)

Helen Merrill / Helen Merrill with Clifford Brown

この作品は楽器ジャズを含めた人気作品リストで、歌ものでは1番上に来る作品ではないかなと思います。アルバムジャケットもいいですよね?秀逸なアートワークです。ジャズにジャケ買いのハズレ無し(多分)!

1955年発売で音楽監修はマイケル・ジャクソンのスリラーのプロデューサーで有名なクインシー・ジョーンズ。ヘレン・メリルは24歳、クリフォード・ブラウンは21歳の時の録音とありますから驚きです。ジャズがまだ若者の新しい音楽だった時代の名作です。

人気の理由は、

・ヘレン・メリルの歌声や唱法が正に女性ジャズヴォーカリストの王道
・特に2曲目「You'd be so nice to come home to」が人気
・トランペットのクリフォードブラウンの演奏が素晴らしい
・楽団全体の音やアレンジが良い

この4つかなと思います。順番に説明します。

まず1点目です。彼女の声がいい!「ニューヨークのため息」と称される適度に枯れたスモーキーな声質で、実はしっかりと低音から高音まで全くかすれることなく歌いきれる音域の広さ。そこはかとなく漂うけだるさも加わって、最高にアダルトな世界観を作っています(まだ24歳なんですが)。

あと彼女が白人であるということもあると思うのですが、歌唱法にいわゆるソウル・R&B色がほとんど感じられないのも、それが好きな人には良い点になると思います。

かなりスローな曲からスウィング感のある曲まで、全て自分の曲であるかのように歌いきる。「あれ?ここってこの歌い方、音程であってる?」なんてところは1か所もない。ライブで歌い込んで完全に自分のものにしているのが良くわかる安定感。特に、6曲目の「ボーン・トゥー・ビー・ブルー」は音程も楽器的な旋律が多く、歌うのが難しい曲だと思いますが、完全に歌いきっているところはさすが。

2点目。このアルバムで一番人気は何と言っても2曲目の「You'd be so nice to come home to」です。歌い始めが曲名でありサビという今時のポップスの方法論のような曲です(ただオリジナル曲ではなくカバー曲です)。イントロも素晴らしいし、イントロから彼女の歌声に入るところも良い。ピアノソロはもう少しアピールしても良かったのかなと思うんですが、逆にこれだけ完成されたアレンジだとピアニストとしてアドリブを弾くのが怖かったのかな?なんて思ったりします。

アルバム全体がしっとりしているので個人的にはもう1曲ぐらいは明るめの曲(に入れ替え)が欲しかったですけど、ジャズボーカル感と言う意味ではこれぐらいのトーンの方が一般の音楽ファンにウケが良いのかもしれません。

3点目です。トランペットのクリフォード・ブラウンが素晴らしい。彼の名前はアルバムタイトルにも入るぐらいこのアルバムの目玉なわけですが、期待を裏切らない活躍。正に天才。私の記事の中でも彼の登場は既に2度目です。初回はこちらです ↓

楽器ジャズをやらせてもアドリブはムチャクチャ上手いし、歌ものジャズでも正に的確かつ歌を壊さないソロが吹ける。彼が長く生きていたらどんなトランぺッターになったんだろうと残念で仕方がありません。トランペットの音色も美しい。

話は少しそれますが、ベースのオスカー・ペティフォードもレイチャールズのアルバム紹介で一度名前が出てきています。

4点目は音楽全体のアレンジですね。音楽監修と一部楽器もクインシー・ジョーンズがやっているわけですが、彼は譜面に落とし込んで考えているはずです。作品内で聴くことができるホーンセクションの音やタイミング、フレーズが凄くいいんですよね。これは頭で一度鳴らしてから譜面に落とさないとできないし、楽器も多いので各自が楽器を好き勝手に鳴らしても収拾がつかない。この直ぐ後から流行り始めるハードバップ期の楽器ジャズとは明らかに違う作り方で、彼ならではの極上のジャズ観を体現している。

特に4曲目の「Falling in love with Love」でそのあたりのアレンジの良さがよく伝わってきます。もちろん名曲の2曲目も大変良いあんばい。しかもやりすぎない。3曲目は5曲目はあえて鳴らす楽器を減らしている。この辺りの加減も素晴らしい。ジャズギターの控えめな使い方もカッコいい。クインシー・ジョーンズはジャズ時代に他にも音楽監修をやっているんですが、やはり全体を見渡して何かを見つける才能があるようです。

いかがだったでしょうか?自分の耳でぜひ確認してみてください!

次回も歌ものを続ける予定です。

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