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【エッセイ】最良の薬は人  ネガティブ・ケイパビリティ(帚木蓬生)

好まれるポジティブ・ケイパビリティ
 
ポジティブ・ケイパビリティとは、ネガティブ・ケイパビリティとは反対の考え方であり、問題を早期に解決する力である。
 著者の受けてきた医療教育ではそれが著しく、できるだけ早く患者の問題を見つけ出し、できるだけ早く解決を図ることが至上命令となる。これだけを聞くと、とても頼もしいように聞こえるが、実際の現場では、問題が見つからない場合や複雑すぎて解決方法が存在しない場合もある。こうなると、ポジティブ・ケイパビリティばかりを追ってきた主治医の場合、看護師に様子を見に行かせ、報告を聞くだけになる可能性があるという。

 この話は、医療教育に限った話だろうか。私自身の経験からもこのような事態と類似するようなことは多々あるように思う。
 その中でも近いと考えたのは、問題解決的な教育である。
問題を見つけるどころか、問題は与えられ、解法手段としての論理を巧みに使いこなし、問題を解いていく様は、まさに、ポジティブ・ケイパビリティそのものである。
 これは、問題解決的な教育を批判するものではない。それによる成果もあり自分自身が大きく成長できたと思う。しかし、私自身、読書を始めたのも、答えを求めてハウツーの本を読んだことがきっかけであり、どこか遠回りを敬遠するところがある。

最良の薬は人である
 終末期の医療では、緩和ケアの対象は、患者でだけでなく家族や遺族も含まれる。緩和ケアには、確定されたマニュアルや対処法はなく、不安や後悔の形も様々であるが、ちゃんと見守られているという感覚があると耐えられるものである。このようなときに、治療者側には、ネガティブ・ケイパビリティが求められる。
 教育においても、子供の興味関心は多種多様であり、何か画一的なことが当てはまる場合の方が珍しいように思う。そのため、早急な結果を求めず、不適切なかかわりをしないことを最善とし、緩和ケア同様、寄り添っていくことが大切である。
 また、このようなかかわりがネガティブ・ケイパビリティの育成につながり、早急や結論ばかりにとらわれず、長期にわたって探求し続けることのできる能力が育まれると考える。

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