【エッセイ】空気を読む脳(中野信子)
協調性とは
人に何かされたら、それ以上にして返すことには価値があり、美徳とされている。しかし、その手間を考えると、多少無理をしても一人でやってしまいたいと考える。これが逆に働くと、自分一人が自己犠牲を強いられる、もしくは、不公平な仕打ちを受けると、損をしてでも、「復讐したい」と燃えることとなる。
この「復讐したい」という心理には、中脳にあるセロトニン受容体の量が関与している。少ないほど、「復讐したい」という心理が強くはたらく。
協調性があると言われる日本人は、世界的にセロトニン受容体が少ない傾向がある。すなわち、「復讐したい」というどこか自覚している心理が抑止力となるため、あたかも協調性があるかのような行動をとる。
※セロトニン:安心をもたらす物質。
不足すると、うつ症状などがあらわれることがある。
他にも、「醜くても勝つ」より「美しく負ける」、悲劇的な人生を遂げた人物への賞賛、政治家の不謹慎な発言、著名人の不倫への過剰なバッシングなどがある。これらについても、セロトニン受容体が関与している。
しかし、長い間、集団で生存することができた人間からすると、「利他行動を優先しろ」という感情は、進化もたらしたとも説明できる。
生存することが容易になり、SNSの発展によって、自分以外の対象がよく目に入る現代において、紙の本を読む時間は、短期間にセロトニンを増やすことに躍起になるより有意義かもしれない。
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