突然吹奏楽部の顧問になる(21)
F高校吹奏楽・合唱部との最後の演奏の顛末は前回。
今回は、教員の「異動」に関する諸々。
まず、引っ越し。
部屋探し、娘の入学の手続き
校長が、異動についてこっそり教えてくれたのは3月の頭。
移動先は県庁所在地の高校。ただ、学校名はまだ教えてくれません。
問題は引っ越すかどうか。現在の自宅から通えないわけではないですが、車で1時間ほどかかります。朝7時には家を出ないといけません。
引っ越してもいいのですが、春から娘が小学校に入ります。娘は現在の自宅近くにある小学校に行くつもりですから、もし娘がF市の小学校に行くと言えば引っ越しはなし。
ここは、娘の意思が最優先ということで、妻が聞いてくれました。結論は、引っ越し。娘は、友達よりパパをとってくれました。
「私も女だから言うけど、お父さんと一緒の方がいいって娘が言うのは、これが最初で最後だから、引っ越しましょう」とは妻の弁。
二つの意味で泣いたのは私。
というわけで、まず部屋探し。部屋を決めないと、娘の通う小学校が決まりません。しかも、引っ越しには、妻のピアノと防音室の移動が必要で、かつ、ピアノ可の物件という条件がつきます。
部屋探しは、音楽家のネットワークというか、防音物件・音大生・音楽家専門の業者さんがいて、わりと早く決まりました。ただ、ピアノの運搬と防音室とに関しては、5月にならないと無理とのこと。
というわけで、4月・5月は「二重家賃」です。
これ、学校長がこっそり教えてくれたから、二重家賃二か月で済んだみたいです。正式な内示は3月中旬。そこまで待っていたらどうなっていたか…。公務員の異動・転勤には、こんなリスクもあるのです。もちろん、二重家賃は自己負担、引っ越し費用も同じ。
そして、娘の小学校入学の手続きも。手続き自体は、3月中にしないといけません。つまり、妻は娘を連れて、何度も県庁所在地まで往復する必要があります。これ、なかなか大変です。
私の後任は…
次年度から、県の「進学指導強化指定校」になるそうです。
メリットは教員加配。つまり決められた定数より多くもらえるのです。
加配は2名。教科は音楽と国語。
国語については少し説明が必要です。必須科目となった「情報」との関係性があります。F高校には「情報の専任教諭」はいません。情報の免許を持っているのは数学2名、国語1名。この3人で情報を担当しています。
そして、国語の先生が、次年度情報主任となります。今年、未履修やってしまったので、その後始末ですね。というわけで、国語の担当授業が減るので、その分加配。
音楽は、校長提案で職員会議満場一致で賛成。
で、誰が来るかです。私はその名を聞いてちょっとびっくりしました。
A県の音楽・吹奏楽業界ではビックネームと言えます。ただ、少し前、行政に行きましたから、出る時は管理職と思っていました。
それが、ヒラでF高校に…なんですね。
その先生なら、吹奏楽・合唱部だけでなく、音楽大学進学希望者への受験指導もバッチリでしょう。
前任の学校長が、美術・音楽を講師に転換してしまいました。これに対し、先生方は、「進学校というのは、経済や理工、難関大学に合格者を出すだけではない。芸術・文化を志す生徒の面倒まで見るのがF高校の進路指導だ」と言っていました。芸術科の復活、しかも加配です。先生方も喜んでいます。
3年生の進路
私のクラスには、学年にいる「音大・美大・演劇希望者」が集められていました。また、東京からの転勤族が多く、都内の大学を受験し合格したら一家で東京に引っ越す(すでに父は単身赴任で東京に戻っている)というものも少なくないです。つまり、地元の国公立よりは、首都圏私大(早慶・上智ICU、March)指向が強いのです。…国公立至上主義的進路指導が始まっていました。結構な逆風です。
私のクラスは、生徒の希望優先。というわけで、早慶・March、あと津田塾・東京女子・女子美などの女子大、東京音大・武蔵美・日芸などの首都圏私大に20人。国公立大学に10人。地元私大10人という結果でした。そういえば、浪人は出なかったな…。
お隣のクラスは、国公立に20人ですから…、ま、いろいろ言われました。
部活動の方では、合唱の副部長が、現役で国立大学医学部に合格しました。経済的には難しい家庭で、私大医学部はとても…です。受けたのは、隣県の国立大学の医学部、前期・後期のみ。
前期がだめで、後期試験へ。その当日、私の携帯がなります。
「先生、今、受験会場です。私をふくめて5人しかいません」
後期の定員は5名。ただし、出願は40名・8倍と公表されていました。
前期で受かったか、後期の受験を放棄した受験生が多いようです。よくあることです。ただ、もし、本当に受験者5名なら倍率は1倍。試験は、小論文と面接。
「いいか、とにかく小論文は完成させなさい。時間切れで未完成だと、評価できなくて1倍でも落とされる。あと、内容は冒険しなくてよい。患者主体の医療、チーム医療、生命倫理とQOLの発想で普通に書けばいいからね」
というわけで、無事合格。
「吹奏楽・合唱部で全国大会に出場して、しかも現役で医学部(医学科)合格」です。これで、吹奏楽・合唱部が嫌いな先生方も、少し認めてくれました。ただ、その部員が合格がわかった時、私の異動はすでに職員には知らされていました。でも、うれしかったです。
妻が言うには…
F高校って、あなたみたいな「研究崩れ・予備校上がり」には、とてもあっていたんじゃないかな。1年目って、とても楽しそうだったもん。よく勉強していたし、夏休みの課外講習の時って、予備校時代みたいなオーラ出てたよ。
F市も適当に田舎で、適当に都会で、温泉も近いし、ご近所も親切で、子育てにはとてもよかった。しかも、賃貸の一軒家でピアノと防音室が置けて、家賃5万円でしょ。東京では考えられない。おかげで、ピアノをさらいまくって、その貯金があったから、合唱部の代打ピアノも弾けたのよ。
「もし、吹奏楽・合唱部の顧問にならなかったら、F高校にまだいたと思うし、いたかったでしょ。異動希望なんか出さなかったでしょ」
そのとおり。吹奏楽・合唱部から離れるためには、F高校から異動するしかないのです。もし、吹奏楽・合唱部の顧問にならなければ、F市に家を建てていたかもしれません。家を建てるなら、妻のピアノ教室も併設したかったですね。
「でもさ、次の学校も進学校じゃない。頑張って。あとね、F高校合唱部の伴奏で全国まで弾かせてもらったおかげで、少しピアノ仕事が増えてきた。県庁所在地に引っ越すことも、仕事増につながるかもしれない。ピアノ仕事を増やしていい? あなたより稼げるようになったら、養ってあげるから。」
そのうち機会があれば書きますが…、ずっと後のことですが、もう一度本意ではなく吹奏楽部の顧問になります。それが、高校教員を早期退職した要因となります。早期退職できたのは、妻が本当に稼ぐようになったから。
ピアニストとしての妻を支える夫でいたいという思いは、今、私を救ってくれています。
次回で最終回
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?