一緒の帰り道 1561文字#シロクマ文芸部
桜吹雪の舞い上がる校庭で、運動部が活動している。
私は美春(みはる)高校2年生。
私がお付き合いをしている彼は善正(よしまさ)
彼は野球部に入っていて、月曜日の休み以外は、毎日朝早く学校に来て、授業を受けて、夜の7時までみっちり部活をしている。
正直言えば、なかなか一緒に遊んだりも出来ないし、月曜日の休みであっても、他の友達と予定を立ててあったりして、本当に中々遊べないし、一緒に居られない。
そんな私が、唯一彼を独占出来て一緒に居られるのが金曜日。
何故か…?
金曜日は、私と彼、善正君と一緒に学校から帰れる日だから。
私は毎日でも善正君と帰りたいけれど、彼がそれを許してくれない。
今時『女の子が夜遅に一人なんて危ない!』とか、『ずっと毎日待たせちゃうのは俺が嫌だ』とか、少し古風な事を言っていた彼を何とか説得して、週一回の金曜日だけは、一緒に帰る約束をしたのだ。
そんな約束をしてから、私は彼の部活が終わるまで教室で勉強するようになった。
復習をして、予習をして、たった金曜日だけの勉強だけれど、塵も積もれば山となる様で、成績は少し上昇。
学校の先生にも、私達のお付き合いは認知されていて、私が教室で待っていると
『二人で気を付けて帰ってね』
と言われるようになった。
たまに彼を待ちながら、教室から野球部のグラウンドを見るけれど、部活中の彼と目が合ったことは、今まで数える位しかない。
悔しいけど……、それ程、彼は野球に熱中している。
私はそれも込みで好きになったのだから文句は言えない…。
……言えないけど…………
たまに、文句や愚痴、寂しさを言いそうになるのも本当。
だって……、わかっていてもやっぱり寂しさは募るから……。
「お待たせ〜!美春、一緒に帰ろっ!」
部活を終えた彼が教室にやって来た。
制服に着替えてあるけれど、顔にはまだ少し泥と汗が付いて滲んでいる。
「善正君、顔にドロ付いてるよ!」
「えっ…、!?本当……」
私は自分のハンカチを使って、彼の泥と汗を拭き取る。
「あははは、ごめんね。急いで来たから、」
私と彼は教室の電気を消し、玄関へ行って靴を履き、自転車置き場行き、自転車を手で押しながら学校を後にする。
学校から分かれ道になるまでの帰り道。
二人きりの時間だ。
「今日の練習、きつかった?」
「うん、いつもと同じにきつかった〜」
「……そっか…、お疲れ様、善正君……」
二人で自転車を押しながら、並んで帰る帰り道。
人通りも、私達以外はいない。
「……なあ、美春……」
「うん?なあに?」
「……ごめんな、いつも」
「………え?」
「俺、野球ばっかりで、野球ばっかり優先して……全然、美春と一緒に居られなくて…………ごめんな、美春、…」
「………………っ」
「俺達、付き合ってるのに……」
すうーっと風が吹いて、歩道まで風で流された桜の花びらが歩道からフワッと舞い上がる…。
「……善正君……」
「うん?」
「確かに、寂しさとか、なんで?って思う時はあるよ。でも、何だか、今の善正君の言葉で、全部吹っ飛んじゃった…」
「え………?……何で……………、?」
「善正君が、私の気持ち気付いて…寄り添ってくれたから………………
ねえ、善正君?」
「……なあに?」
「私、とっても嬉しかった!だから、もう謝ったりしないで!
私、本当に善正君を好きになって良かった!!私、見る目あった!!」
彼は照れて顔が真っ赤になりつつも、キョトン…とした顔をしている。
私はその顔が、何だか可笑しくて可愛かった。
私は、並んで歩いていた歩幅を少し広げ、少し彼の前を歩く。
そして自転車ごとくるっと振り向き言った。
「善正君!大好き!!」
元々真っ赤だった善正の顔が、もっと赤く染まるのを見ながら、私はホワホワした気持ちになる…。
日が少し伸びた夜の帰り道。
桜吹雪は舞い上がり、彼と私の周りを、優しく流れていった……。
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました。
素敵なお題をありがとうございました。
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