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『魔の山』 by トーマス・マン

タイトルは知っているけど、読んだことのない本を読もう!シリーズ。

魔の山』(上)(下) by トーマス・マン(高橋義孝訳、新潮文庫)

トーマス・マン(1875~ 1955)は、ドイツ出身の小説家、評論家で、自身の一族の歴史をモデルとした長編『ブッデンブローク家の人々』で名声を得る。
その後『ヴェニスに死す』などの芸術家小説や教養小説の傑作『魔の山』を発表し、1929年にノーベル文学賞を受賞した。
ヴェニスに死す』の映画は見たことがあるが、実際にトーマス・マンの小説を読んだのは、今回が初めて。

とにかく長い。
文庫2巻だから何とかなるか、と思ったが、2巻合わせると1500ページほどになる。
図書館で借りて、延長しても読み切らず、また再度借りてきて、ようやく完読。

まずは上巻の内容と感想から。

ハンブルク生まれで両親はなくしたけど、そこそこ裕福な青年ハンス・カストルプが、造船関係の仕事につく前に、短期の療養といとこのヨアヒムを見舞うため、スイス高原のサナトリウムを3週間の予定で訪れる。

第一章では到着とサナトリウムの様子が、第二章ではハンスの生い立ちが語られ、このままテンポよく進むのかと思いきや、第三章からは延々とサナトリウムの話が続く。サナトリウムには重病の患者もいるけど、多くは微熱がある程度。中にはもう退院できそうなのにしないものも。

ヨアヒムは、早く退院して軍務に付きたいと思い真面目に療養しているがなかなか許可が降りず、3週間の予定だったハンスも更に滞在が伸びていく。サナトリウムと言っても豪華な食事が日に5回も出て、クリスマスや謝肉祭などの行事も社交界と変わらない感じなので、暗さはないが、奇妙な感じは終始つきまとう。
初めは、この病院は潜りで、お金持ちからふんだくるのが目的ではないのか?と思ったりしたが、当時(第一次大戦前)だと、これが最高の治療方法だと思われていたのかもしれない。

話は終始同じテンポで進むわけではなく、哲学的な考察や医学的な解釈などが延々数ページも続くことがあるかと思えば、ハンスが好意を持っていることがまわりから見れば明らかな女性になかなか近づけない様子の描写が妙におかしかったりもする。

膨大な人数が登場するが、重要と思われる人物はうるさいくらいに出てくるので、意識して覚えようとしなくても名前を覚えられるのはありがたい。

下巻に入っても、舞台はうつらず、ほぼサナトリウム内の描写で終わる。
にもかかわらず、多くの人間模様や様々な分野の専門的な話が盛り込まれている。
上巻で疑問に思った治療法、医学が発展した今では、変に思えても、当時としては先進的だったらしい。

主人公のハンス・カストルプは、はじめは無関心な若者かと思いきや、いろいろな集まりに顔を出す。
そんな中で、様々な人々に出会い、成長?していく。
恋愛もどきの相手、ショーシャ夫人。一度「退院」してから、男性と舞い戻るので、ハンスはもやもや。
いとこのヨアヒムは、軍隊に入るために、無理やり「退院」したものの、また舞い戻ってくる。
文学者セテブリーニは、「退院」して、療養所のある村の下宿住まい。そこには、論敵のイエズス会士ナフタもいる。

哲学、宗教、人体の不思議、フリーメイソン、恋愛、こっくりさん、数学、経済、カード遊び。様々な話題が深く語られつつ、終焉に向かう。
そして戦争。時代は、第一次大戦前夜。遠い歴史の昔の話のようで、現代と妙に重なる部分もある。

1つ1つの話題の専門的な話は、けして易しくはないし、死者が多数でるサナトリウムが舞台。それでも、全体が予想ほど重苦しく感じず、明るく、時に滑稽にも思えるのは、作者のユーモアセンスによるものか。

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