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ウクライナから来た水泳コーチ

去年の夏から、子供達のスイミングコーチはウクライナの避難民だ。楽しい教え方で皆に好かれ、上達も早くて大人気。

幼い次男には、泳ぎ方よりも先ず水に親しむようにと、様々な遊びでバシャバシャ楽しませてくれる。おかげで、顔を水につけられるようになり、少しずつ泳げるようになった。殆ど泳げなかった長男も、今ではスイスイ。バタフライの練習まで始めている。水泳がすっかり趣味になった。

新しい先生に大喜びの子供達の上達を一緒に喜びながらも、家族の安否や祖国のことを聞けずにいた罪悪感。結局、「いつも貴方の家族のことを想っているのに、聞けなくてごめんなさい」などとメールで送った。既読スルーだった一晩はドキドキしたが、翌日、「家族のことを気遣ってくれてありがとう。良い心の支えになります」と返信してくれた。

そんな中、日本から幼馴染が渡英中、1回だけレッスンに参加した。その子供達も、楽しいレッスンに大喜び。社交的な友人は、先生に名刺を渡し、日本に来ることがあれば遊びに来てねと話している。こんなこと言ってよかったのかなぁ、と私に聞いていたが、後日コーチが「素晴らしい時間だったわ」と言っていて、気遣いすぎない交流も癒しになるのではないか、と感じた。レッスン中も、小さな子供達の無邪気な笑顔と笑い声で、少しは息抜きになっているかもしれない。家族のことなどを心配してしまう私よりも、自然に明るい子供達の方がよっぽど助けになっているのではないだろうか。

ロンドンは人種のサラダボウルだ。私の友人も、ロシア人もいれば、ウクライナ人もいる。コーチはロシア人とはつながれないと一度だけ言っていたが、普段それを表に出すことはなく、「子供は親に対する責任はありません」と言う。そして、「貴方の理解と友情をありがとう」と。いつか心理学の授業で、差別や偏見を無くす方法のひとつに、個人的な交友関係、と習ったような覚えがある。彼女のような寛大で温かい人たちから、将来の平和が始まるような気がする、と言うのは甘いだろうか。水泳だけでなく、生き抜く強さや優しさを教えてもらった。又、移民を受け入れることにより、受け入れ先も豊かになることもある、と実感した。

ある日、更衣室で一緒になり少しゆっくり話せたので、家族のことを聞いてみた。電波はあまり良く無いが、時々は話せること。自宅は戦争が始まると同時に破壊され、別荘に移ったこと。そこから、兵士達に食べ物を配っていたこと。

水泳の先生を紹介してくれたのもウクライナ人だ。日本旅行もしたことがある彼女曰く、クリミア半島は、以前は南フランスを思わせるリゾートだったという。ウクライナ旅行ができる平和な日が早く訪れますように。

私達にできることはあるだろうか。モスクワで、現実から目を逸らしながら何もできずに生活している一般市民も、他国で普通に暮らす私達もあまり変わらないのではないだろうか。寄付ぐらいしか出来ていない。ウクライナだけでなく、世界中で幾つもの紛争が続いている。対岸の火事ではなく、少しでも出来ることを考えていきたい。

こども達がパンパパンツと名付けて大事にしている。コーチに貰ったおもちゃのひとつ。


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