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【妄想お悩み相談室】第3回「天国ってどんなとこ?」

ご相談:
 30代、2児の父です。先日、私の父が病気で亡くなりました。上の子は4歳の男の子で、初めて実感をもって人の死を経験しました。父は上の子が初孫だったこともあり、息子をとても可愛がり、息子もそんな祖父をとても慕っていました。そうであるが故に、息子にとって祖父の死はショックで、受け入れがたいものなのだと思います。
 父が死んだ時、息子が霊安室に横たわる父の遺体を見て「おじいちゃんはどこに行くの?」と聞いてきました。私は、「おじいちゃんは天国に行くんだよ。」と優しく教えました。
 その時は、その解答で納得してくれました。しかし、葬式が済んで2か月程経ってから、息子の質問攻めが始まりました。
 「天国って、国なの?どんな国?」「遠い国なの?そこにはどうやって行けるの?」と言って、私たちを困らせます。息子にとっては、自分を溺愛してくれた祖父。祖父を失った喪失感は、4歳の子どもにとって強烈すぎるのは分かるつもりです。
 しかし、最近では「おじいちゃんの所に行く!おじいちゃんに会いたい!」といって、挙句の果てには泣き出す時もあります。ある時、「おじいちゃんの所に行ったら、その代わりにパパやママには会えなくなるんだよ?」と詰め寄ってしまい、火に油を注ぐ結果になってしまったこともあります。
 こうなると私たちも本当に困ってしまいます。私たち親は言うまでもなく、まだ4歳の息子を天国に行かせたくなんかありません。どうやって、息子を説得すればいいでしょうか?ご教示願います。

回答者:45歳男性 夢見師(ドリーマー)
 こんにちは。ドリーマーという仕事をしているものです。初めてこの職業の名前を聞く方が多いと思いますので、先にこの仕事の詳細について話させてください。
 人間は、知的欲求が尽きない生き物だと言います。古代の哲学者から近代の科学者に至るまで、私たちは様々な手段を用いてあらゆるものを知りたいと願い、解明してきました。現代では、知識の探求においては科学的手法に重きが置かれていますが、科学も人間のやることですから限界はあります。実は科学では解明できないことは、科学以外に頼って解明しているのです。
 例えば、天国ってどんなところかとか、人は死んだらどうなるのかとか、宇宙の果ての果てにはなにがあって、そこはどうなっているのかとか、生まれ変わりって本当にあるのかとか等々…。科学では生きている人間が理解可能なものしか研究対象になりませんから、こうした現世にいる人間が理解できないものは話題に挙げてはいけません。
 しかし、こういった天国や人が死んだ後の出来事などは、実は私たちが思い出せないだけで、私たちの深層心理のさらに奥深いところで、そういったものの記憶があると言われています。そしてそれは、夢に現れる。なので、私たちは積極的に夢の中に入って、科学では、もっと言えば人間には認知不可能な世界の在り様を観察する。これが我々の仕事になります。かなりオカルトな話なのは重々承知しております。
 さて皆さんは、天国という場所を聞いたことはあるけど、行ったことはないと思います。実は私、仕事柄何回か天国に行ったことがあるのです。なので今日は息子さんに、天国がどんなところだったかを教えたいと思います。きっと、天国に行ってもあまり良いことがないということを分かってもらえると思います。
 まず、天国には一人ひとり個室が与えられます。ホテルの一室みたいなところです。ベッドはフカフカでいつもキレイに整えられています。バスルームと洗面台、あとは軽く作業の出来そうなデスクスペース。食事は外食かルームサービスを選べます。ルームサービスの味は可もなく不可もなくといった感じです。
 さて、天国ではこの部屋から出る時、一風変わったルールが存在します。ドアに付いている3桁の数字が入力できる回転式のダイヤルです。この数字を設定して外に出なければなりません。これはナンバーロックではなく、エイジロックです。
 エイジ(age)というのは年齢のことです。このナンバーは0から自分の享年までの数字を選ぶことができます。つまり、自分が何歳の時の姿で外出するかが選べるのです。なので、エイジロックを20に設定してドアを開けると、その瞬間20歳の頃の自分の姿で外に出ることができるのです。
 年齢を自由に選べる?なんと羨ましい!そう思うのも束の間です。実はさっき、天国に行ってもあまり良いことがないと言ったのはこのためなのです。
 いいですか。自分の好きな年齢を選べるという事です。大抵の人にとって「好きな年齢」とは、人生の盛りの時期、つまり若い頃です。天国ではどこを見ても若い人で溢れかえっています。しかも、一度人生を走り終えたとはいえ、身体が若返ると、精神までもその年齢に逆戻りするのです。そんな身体は元気で精神が未熟な人間が好き放題に振舞う。そのため、ご想像の通り天国の治安は物理的にも精神的にも良いとは言えません。
 最後に、そんな天国ならではの、とある男の悲しいお話もしておきましょう。その男は、若い頃見た目が良くなく、あまり女の子にもモテなかったそうです。ですが、無事にキレイな奥様と結婚をし、晩年は奥様と穏やかに幸せに暮らされたそうです。その人にとって人生の盛りは、まさに晩年において訪れたのです。
 なので、彼はいつも天国で外出をする時は、自分の年齢を高齢に設定していました。そうすれば、後から天国にやってくる奥様もきっと見間違いますまい。そう思って、いつも通り出かけていたある日のことです。外でついに奥様を見つけたのです。
 しかし、奥さまは彼と出会う前の姿を選んでいて、かなり若くなっていました。そして、若い頃の器量の良さを存分に発揮して男たちを侍らせ、それはもう幸せの限りを尽くしていたそうです。彼にとっての幸せな時期は、彼女の人生の盛りと共にあったわけではありませんでした。
 息子さんに伝えておいてください。天国に行けば、確かにおじいさんには会えるでしょう。でも、それが「あなたの好きだったおじいさん」かどうかは、保証しかねます。

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