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東大生の米談義 番外編 -最近のお米動向- #5

Podcast「東大生の米談義」の番外編となるお米News #5です。


先日Podcast#3を配信しました。
(毎週土曜日16時頃更新)
ご感想お待ちしております!(Instagramも更新中!)


合理的な海外進出

昨日、Facebookの在米邦人グループに目を見張る投稿があった。
某有名日本食チェーンUS法人の代表取締役社長が直々に、アメリカ店舗の大幅拡大に対する決意表明を行なったのだ。

国内大手の海外店舗比率は2023年度に初めて4割を超え(日本経済新聞集計)、歴史的な円安の中、為替リスクを相殺して成長を目指す動きが広がっている。

インバウンドによる成長はありつつも仕入れコストや人件費の高騰、同業他社との熾烈な競争などで利益が頭打ちした国内の外食市場は長期的には縮小傾向で、業績を伸ばすためには海外事業の拡大は急務。

長らくデフレが続いた日本に比べ海外は値上げをしやすい上、外食企業が外貨を稼ぎ食材コストを抑制できるため、為替による業績変動リスクの軽減策として円安の今海外事業を強化することは合理的な経営判断だと言えよう。

実際、海外店が少ないすかいらーくHDでは23年度に円安などが92億円の減益要因(営業利益ベース)となった一方で、中国などの海外店舗数が4年で18%増えたサイゼリヤは、国内では値上げを見送る一方海外での価格転嫁が奏功し上半期のアジア事業の利益は2.3倍になっている。

同様の内容を語る「タイでの日本の飲食チェーンが出店ラッシュ」という記事も見かけた。JETROの調査ではタイ国内の日本食レストランは2017年から6年で2倍の5751店に成長していると聞き、「やよい軒」「CoCo壱番屋」「大戸屋」「すき家」「モスバーガー」「吉野家」「一風堂」「スシロー」「てんや」「築地銀だこ」などはそれぞれ10-200店舗を展開すると聞く。

現地ライター曰く、「客単価は高く、それでいて人件費は日本より安いので利益率が高い。それに多くのチェーンは現地企業によるフランチャイズ経営で、同業他社の成功事例も多いことから、日本よりリスクを抑えて利益を出すことが可能」だそうだ。

他にも昨日、2020年2月にコロナ拡大による客数減少の長期化を見通し中国本土から全面撤退したワタミグループは、深圳に「三代目 鳥メロ」1号店をオープンし再挑戦を図るプレスリリースを出した。世界中で注目を集める日本の「居酒屋」の海外展開は、在外邦人にとっても大変喜ばしいニュースである。(自分にとっても日本に帰りたいと時々思う最大の理由がこれだ。)

日経新聞の見立てでは大手外食全体の海外店舗数はさらに増え、数年内に国内を逆転するそうだ。外食の海外展開により日本食への関心が高まれば、日本米輸出のさらなる後押しが期待できるだろう。


輸出には注意が必要

ただ、「味の素「冷凍ギョーザ」が世界の嗜好に合わせ拡大」の記事にもあるように、日本食の輸出には現地の食文化・料理文化を理解した工夫が必要である。

自分が「日本の洋食」「日本の中華」が好きなように、土地土地の食味嗜好、文化に合わせるのは当然重要である。

「NYでONIGIRI大人気」という記事ではONIGIRIを求めて並ぶ非日系の人々の姿に驚かされたとある一方で、日本人には馴染みのあるビニールパッケージの外し方がわからないのか海苔を捨てる人が多いという話もあった。

※ちなみに現地文化への適応という文脈で一つ小話。
この記事によれば”海外の寿司”の代表格カリフォルニアロールなどが外側を米で覆う独特な形になっているのも、海苔を内側に巻くことで黒い海苔のインパクトを少なくしたかったから。

注目すべきは、彼らが「コト消費」をしているということ。
ニューヨークでおにぎりが脚光を浴び始めたきっかけの一つに『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などのアニメがあり、微妙な違いであるがアニメキャラのように「おにぎりを食べる」体験/コトを欲しているだけで、必ずしも「おにぎり」というモノが欲しくて並んでいるわけではないということだ。

それはつまり、おにぎりの拡大のニュースははそれそのままに日本米の消費拡大のシグナルにはなり得ないということである。
アメリカに住んでみればすぐにわかるが「家で作ってみよう」のハードルが日本とアメリカでは天と地ほどの差がある。
日本と違い作られたものや提供されるサービスに対価を支払う傾向が強い彼らに”食材”を提供することの難しさを改めて実感した。


アルコールという切り口

お米加工品の4番格、日本酒。

今季から大谷翔平選手が加入したドジャースの本拠地、ドジャースタジアム(ロサンゼルス)のVIPシートでは、「一品」純米大吟醸の提供が3月末の開幕戦から始まっている。

「国際市場で勝負するために、競合となるワインの品評会にも出品してきた」と語る老舗酒造の吉久保酒造(水戸市)吉久保博之社長から覚悟が伺える。

また2024年7月3日に渋沢栄一が肖像画の新1万円札が発行されることを記念して、東京北区のプレミアム日本酒「飛栄」の限定販売が5月23日からスタート。

主体は東京北区観光協会で、日本酒発酵に欠かせない酵母の採取は東京バイオテクノロジー専門学校が、醸造は23区唯一の酒蔵である東京港醸造が担い、「マクアケ」にてクラウドファンディングを行なっている。

『飛栄 HIEI』の名前の由来は、渋沢栄一が拠点を構えた飛鳥山の”飛”と、渋沢栄一の”栄”で、酵母は飛鳥山で採取されたそう。純米吟醸、純米大吟醸の2種類を販売する。

日本酒漫画の金字塔「夏子の酒」を愛読していた自分にとって純米大吟醸がこうして様々な形で世間を賑わすのは小気味よい。

そんな中、お酒を飛び越えたアルコール度数95%のお米エタノールを目にした。

株式会社ファーメンステーションが手掛ける「お米でできたオーガニックライス・エタノール」がリニューアルし新発売された。手作りコスメや、精油と混ぜて作るアロマスプレーの材料としてなど、幅広く利用可能だという。

原料のお米は岩手県奥州市の休耕田を耕して育てた有機JAS玄米で、今回このプロダクトを世界でも有数のオーガニック認証であるUSDA認証製品としてリニューアルしたのだ。

オーガニック&トレーサブルな化粧品原料は世界的にも珍しく、国内にはほとんど存在しない。お米がまだ種もみだった頃まで遡ることのできる追跡可能性と、製造後に残った発酵粕も地域の家畜の餌としてごみを出さないサステナブル志向には感服である。

普及が進む日本酒と、オーガニック/トレーサブル/サステナブルなお米化粧品は、アルコールという切り口からお米市場を切り開いてくれるだろう。

株式会社ファーメンステーションはサステナブルな原料や環境に配慮した製法にこだわったナチュラル・オーガニック処方の化粧品・雑貨のOEM・ODMも可能だそうで、RICE DAOとして今後行うプロジェクトのアプローチ先として要チェックである。


ドジョウ米と六本木田植え

先日アイガモ農法の話をしたが、また面白い農法に出会った。

「ドジョウ農法」である。

"富山県の中央農業高校(富山市東福沢・大山)は28日、同校の約8アールの田んぼで、雑草の生育を抑えるロボット「アイガモロボ」とドジョウを使った「ドジョウ農法」をかけ合わせた水稲栽培を始めた"そう。

ドジョウ農法では、田んぼに隣接するいけすでドジョウを育て、排せつ物を肥料にし、収穫は9月末~10月上旬頃で「どじょう米」として販売予定だ。

除草剤や化学肥料を使わない環境に優しいコメ作りに取り組む中で生き物をに手助けしてもらう方法は魅力的に見え、『水稲作へのドジョウ養殖導入による水田生物多様性の構造と機能に関する農生態学的評価』(愛媛大学 1998)によれば生物多様性保全などの高いレベルの生態系機能活用型の農生態系が実現できる可能性が示されたそうだ。

また生物多様性とはかけ離れているが、”米作り”の多様性を思わせるニュースもあった。

六本木ヒルズの屋上庭園にて田植えが行われたのだそう。

星空舞は「東大生の米談義」真打であるおこんでのエッセイシリーズでも触れている。一体何の話をしているのか自分でもわからないがとにかく星空舞は「何でもない1日を情緒ある」きっかけになったお米だ。

普段何気なく見かけた六本木ヒルズの屋上で田植えが行われていることを想像すれば、あのビルにもひょっとして田んぼがあるんじゃないかという、ジブリを観た後の日常のワクワク感を引っ張り出すこともできよう。

当日は近隣住民や六本木ヒルズのワーカーなど約160名が参加したそうで、過疎化が進む鳥取のような地方産地から人口の集中する都市での米作りシフトの可能性を思わせる興味深いニュースであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!

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