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虎の子日記    鬼の面と眠れぬ夜②

その昔、日本一周フーテンの旅をしていた。その時泊った茨城県のある神社のお話の続き。

日が暮れて、宿主は自宅へ帰り、自分以外にお客はいない。
広い神社の敷地内に人間は私だけ。いや、むしろ他のものは居ないと信じたい。しかし、盗むものはないと思っているのか、神社で悪事を働くものはいないと思っているのか、見ず知らずの客を一人残して帰るとは、なんとも平和な田舎事情である。

食事を済ませ、宿泊部屋に行くと、なんと戦々恐々たる鬼の面があるではないか!もれなくこっちを睨んでいる(ように見える)
なんで神社やお寺ってこんな怖いお面をわざわざ部屋に飾るんだろう?
西洋でいうカモ鹿のはく製的な?獲ったどー的な?それともハロウィンの、わざと怖い顔に削ったカボチャを家の前に置いて魔除けにする的な?

気を紛らわそうと、テレビがある部屋に行ってみた。こういう所は各部屋にテレビはない。テレビを見たり飲食などは、娯楽室のという所に集まるのがルールである。でもこの日はもちろん集まるお客はいない。
「わーいテレビひとり占め~」なんて陽気に言ってみたりしたものの、テレビを見ている背後から何か来そうな気がして画面に集中出来ない。
そうだ、取って置きのアレだ!
私は隠し持っていたビールとポテチを出す。「これはいいぞ♪」とテンション上がってきたものの、今度はトイレに行きたい。長い暗い廊下の先にあるトイレ。もう一人きりなのを逆手に大声で歌いながら用を足す。

ビールも尽き、いい加減眠らないと明日も運転が控えている。
はた、と友人に電話をかけてみた。当時まだ出始めのセルラーホンを持っていたので、布団に入り今の状況がいかに怖いかを友人に訴えていた。
その友人とは、旅に出る前みんなで飲みに行った程度で、幼馴染でも彼氏でも親兄弟でもない。
かれこれ30分は付き合ってくれただろうか、うとうとした私は「おーい、大丈夫かー?もう寝れるか?電話きるぞー・・・」という声を夢の中で聞きながら寝落ちしたのである。

電気はつけっぱなし、電話を握ったままで目が覚めた私は、鬼の面を彼だと思って手を合わせた。「彼氏でもないのにくだらない電話に付き合ってくれてありがとう。爆睡してごめん。加波山神社のキーホルダーお土産に買っていくね。」

ボーイズよ、彼女でもない人の寝落ちに付き合う、これが男の優しさだ。
バチェラー改造計画はまだまだつづく。

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