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裁判所へ呼ばれた話~ アメリカ

先日、45年生きてきて初めて裁判所へ呼ばれて出向くという体験をしたので、このことを記録しておこうと思う。

いきさつを簡単に説明すると、住宅街の一旦停止の交差点で停止しそびれたのを、はじめての違反ということで警告のみで見逃してもらったのだが、その1年半後くらいに、また近所の住宅街の別の一旦停止の交差点で、自分では止まってから発進したつもりが、「きちんと完全停止してなかったから」という理由で捕まり、チケットを切られたのがきっかけである。

その2回目が今年の4月あたま。
交通ルール違反を犯したなどという自覚は全くなく、一旦停止してから発車したところで後ろからサイレンが鳴り、自分のことだとなかなか気づかなかった。「えええ!?」もう止められてビックリ。

邪魔にならないところで停車して窓を開けて待っていると、「完全停止しなかったから」と言ってきた。免許と車両保険を手渡して待っていると「あなた、前にも私に止められたことがある?」と聞いてきた。なんと1回目のときと同じ、黒人女性の保安官だった。近所の住宅街のパトロールはありがたいのだが、こんなことで住民とっ捕まえてチケット切ってるなんて、ありがたくない。

こんな近所の住宅街で、交通事故はもちろん、誰一人として危険にさらしていない、「一旦停止」が0.5秒短かったくらいの話で、善良な市民を引き留めてこんなことに割く時間があったら、もっと重要なことに時間と税金を使ってくれー!!

もちろんそんなことは言えるわけもなく、大人しくチケットを切られて帰ってきた。


さて、家に帰ってきてから持って帰ってきた紙を読み、どうしたものか悩む。

ケースの情報がシステムに入力されるまでには、1週間かかるというので、後日オンラインでケース番号を入れて調べてみると、なんと罰金244ドル。うーん、払えない金額じゃないけど、どうしよう。

困った私はグーグルで、とりあえず交通違反チケットを多く取り扱っている弁護士事務所を調べ、評判が良さそうなところに連絡した。ラスベガスに住んでいたときに、夫がスピード違反でチケットを貰ったときは、弁護士に100ドルくらい払ったら、裁判所へ行く必要もなく、ケースが却下されて片付いたことがある。そんな記憶があった。

グーグルでレビューが何千件もついていた一番人気の弁護士事務所へ電話してみると、費用は90ドル。その次にたくさんレビューのついている弁護士事務所へ電話すると、費用は70ドルだった。

弁護士を雇った場合の流れはこうだ。
保安官にもらった召喚の用紙に書いてある日程に、まずは弁護士が裁判所へ出向き、法廷審問の日程変更の申請をする。後日、法廷審問の日程が新たに設定されたら、その日は本人(私)と弁護士が法廷に行かなければならない。そこで、ケースが却下されれば、罰金もなしでケースは片付く。却下されない場合には、その時に弁護士がオプションについて説明してくれるという。ケースが却下されるかどうかは誰にもわからず、保証はできないという。

弁護士を雇えば、法廷に出向かなくてことが片付くと思ってたけど、当てが外れた。法廷審問は当然平日だろうから、仕事も抜けなきゃ行けなくなるし、やっかいだなあ。でも244ドルの罰金がなくなって70ドルで済むなら、その方が良いか。ということで、70ドルの弁護士に依頼することにした。


もともとの法廷審問は6/30で、再設定された日程は7/15、金曜日の朝8時だった。朝一番のスケジュールだったので、終わり次第出勤することが出来るから、変な日中の時間じゃなくて助かった。


さて、当日。

余裕をもって20分前に着いて良かった。
ガラス張りになっている建物の入り口を外から覗くと、すでに30人くらいの人たちが狭いロビーに集まっている。恐る恐る中に入り、列ができているようなので、一番最後の人がどこか周りの人に聞き、列に並んで少し不安になる。

8時に法廷に来い、という指示なのに、この人たち全員受付するんじゃあ間に合わなくなってしまう・・・。不安な気持ちを抱えて並んでいると、ロビーの奥へつながる入口から誰かが大きな声でアナウンスを始めた。よく聞こえなくて何を言ってたのかさっぱりわからなかったが、ロビーから人が奥のスペースへと流れていく。ついて行くと、法廷の入り口の扉が開いていて、皆そこへ流れ込んでいく。

不安になり、法廷の入り口の警備員らしき男性に「8時にここへ来るように言われていて、弁護士を雇っているんですけど・・・」そこまで言いかけたところで、「ここの部屋(法廷)に入って」と促された。

正面からみるとまさにこんな感じ
で、こういう感じの木製のベンチがある

ひとつのベンチに最低でも6人は腰掛けるように、と言われた。すべてのベンチが埋まり、遅れて入ってきた人は真ん中の通路に立っているように言われた。およそ80人くらいはいるだろうか。

全員、交通違反のチケットを切られてここにいるんだと思うけど、みんな悪い人に見える・・・。なにこの空間(笑)。

前方には弁護士と思われる人物が4,5人くらいいて、席に着いたり、立って世間話をしていたりする。そのほか、法廷の係りと思われる女性2人と、警備員もしくは保安官の人物が一人。

しばらく緊張しながら待っていると、出席(?)の確認で名前をラストネームのアルファベット順で呼ぶので、呼ばれたら大きな声で返事をするように!大きな声で!と強調される。

呼ばれるまでもうドキドキ。自分の声はアメリカ人に比べると細くて通らないので、大丈夫かと不安になったけど、ちゃんと「Here!」と言って認識してもらった。

出席確認が終わると、今度は「今から名前を呼ばれる者は、大きな返事をして、席から立つこと!」と指示される。弁護士をつけている人の名前の前には弁護士のラストネームがつけられて、どんどん呼ばれていく。私の名前は呼ばれないけど、呼ばれることがいいことなのか、悪いことなのかもわからない。とうとう私の名前は呼ばれないまま、およそ6~7割くらいの人の名前が呼ばれ終わった。

すると「今名前を呼ばれて席から立っている者のケースは却下されたので、帰ってよし!」

えええ・・・!!!

私帰れないの?  (T_T)

すると次に、また「今から名前を呼ばれる者は、大きな返事をして、席から立つこと!」と言って、また名前が呼ばれ始めた。ひとりひとり、返事をして席を立っていく人を見守りつつ、不安が募る。だんだん自分の名前が呼ばれない気しかしてこなくなってきた。私の名前が呼ばれないまま、また2割くらいの人たちが「今席を立っている者のケースは却下されたので、帰って良し!」とのアナウンス。


ノォォォー---!  (T_T)


残っちゃった。残っているのは20人くらいだろうか。
これからどうなるんでしょう・・・?


すると、法廷の前方に待機している弁護士たちが動き出した。クライアントのうち、ひとりずつ呼び出して、個人的に話をし始めた。5分ほど経って、恰幅の良いボーイッシュな女性弁護士が、私の名前を呼ぶので前方に出ていくと、「ちょっと待っててね、Sweetie」と優しく言われる。私より若そうに見えるけど、sweetieと愛称のようなもので呼ばれ、弁護士さんは優しそうな人で良かった、とちょっとだけホッとする。

しばらくノートパソコンで何かリサーチしていると思ったら、グーグルのマップで私がチケットを切られた場所にピンが立っている。「あなたが住んでいるのは○○の町で、チケット切られた場所も○○の町ですね?」と弁護士さんが聞く。「はい、そうです。」そう答えると、「今からあなたのケースを検察官とどうにか交渉できるかやってみるから、後ろの席に戻って待ってて。」と指示され、席に戻る。

待つこと15分くらいだろうか?ようやく弁護士さんがノートパソコンを開いて、黒いスーツを着た重要人物らしき人(Counsel=弁護士と呼ばれていたので、裁判官ではないらしいが、検察側の偉い人なのか?)に話をしに行った。1分経たないうちに、弁護士さんが私の座る後方までやってきた。

笑顔だ!!

お!!これは、イイ感じ?


「あなたのケースは却下されたから、あなたは自由よ!」


あああ、ありがとおぉぉー!!!(T_T)



「ああ、ありがとうございます!」
と私が言うと、笑顔で「良い一日を!」と弁護士さん。
次のクライアントのケースに取り掛かるため、法廷の前方へ戻っていった。

ああ、良かった。
良かったあ。良かったあー。


裁判所から外へ出たときの、空気の美味しいこと!(笑)


車に乗り込み、弁護士さんの仕事って本当にすごいなあと感謝と感心の気持ちでいっぱいになりながら、仕事へ向かったのだった。
ものすごく勉強して、難関の司法試験を合格して弁護士になる人たちにとって、毎日毎日交通ルール違反のチケットの処理を仕事にするのって、不本意だったりとかするのかも知れないけど、でも今回の私の立場からみると、本当にスーパーヒーローのようにかっこいい存在だよなって思った。

弁護士事務所のホームページに顔写真とプロフィールが載っていた3人の弁護士のうち、どれもその日助けてくれた弁護士さんではなかったから、名前もわからず、なんとお礼をしたらいいのやら、いい考えが浮かばないけれど、本当にあの優しい弁護士さんには感謝でいっぱいだ。

罰金も払わずに済んだし、運転レコードにも今回の違反は残らないはず。
人生で裁判所に呼ばれて、弁護士さんのお世話になろうとは思っても見なかったので、これもまた、心に残る経験になった。生きてるといろいろな経験をするものだね。

もうこんなことにならないよう、あれ以来、一旦停止の場所ではしっかり停車して、1秒余計に数えるようにしています。

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