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【長編小説】二人、江戸を翔ける! 4話目:江戸城闖入記⑤
■あらすじ
ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・凛を助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。これは、東京がまだ江戸と呼ばれた時代の、奇想天外な物語です。
■この話の主要人物
藤兵衛:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
凛:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
ひさ子:藤兵衛とは古い知り合いのミステリアスな美女。
■本文
その日の夕方、凛は藤兵衛の部屋にいた。朝のゴタゴタや昼の挑発された件もあってお互いひさ子の話題を敢えて避けているせいか、どこかギクシャクしている。暫くすると、
「ちょっと用事があるから、これから外へ出かけてくるわ。今日はもう終いな」
と、藤兵衛は大き目の荷物と鉄傘を抱えてそそくさと部屋を出ていく。
(・・・あやしい)
普段と違う行動を見て、第六感が働いた凛。こっそりと藤兵衛の後をつけていった。
(ふぅ・・・ どうにか振り切ったか)
藤兵衛は後ろを振り返って凛がいないことを確認すると、小道に入る。
凛の尾行に気付いた藤兵衛は、あっちの道へこっちの道へとわざと複雑な経路を通り、まいたのだった。
まいたはずだったのだが・・・
ほっかむりをした娘が、藤兵衛の後ろ姿を物陰から見ていた。
「・・・ふっふっふ。甘いわね、藤兵衛さん。私をまこうったって、そうは烏賊の金●ま」
そして、ヒロインとは思えない台詞を放つ。
凛はまかれた振りをしただけで、実はしっかりと藤兵衛を追尾していた。
(こそこそと出かけるなんて・・・ 怪しい、怪しすぎる。もしも、もしもあの女との逢瀬だったら・・・ 許さん!)
怒りの炎を燃え上がらせながら、尾行を続ける。
(しかし、どこまで行くのかしら・・・)
藤兵衛はあっちに曲がり、こっちに入りで既に町方の区域を抜けて武家方の区域を歩いている。
そして一旦立ち止まると周囲を見回し、ひょいと塀を登ったのだが、その先は何と江戸城であった。
(え!? ここ、お城じゃない!)
意外な行先に驚いたが、あの女との逢瀬(と思い込んでいる)阻止のためと、凛も後を追うように塀を登るのだった。
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塀を降りたところで藤兵衛を見失った凛は、林の中をさまよっていた。
城の中に林があることに驚きながらも藤兵衛を探していると、見覚えのある人影を二つ見つけた。
(あ、いた! ・・・やっぱり、あの女も一緒だわ! あんにゃろ~~(怒))
茂みに隠れながらそ~っと近づくと、藤兵衛とひさ子はしゃがみこんで小声で話をしている。
(しかし・・・ 逢瀬にしては、随分変わってるわね)
ひさ子は朝とは異なり動きやすい恰好をし、藤兵衛は大きな荷物を背負って鉄傘を脇に抱えている。
逢瀬に荷物は必要なの? と、そもそも逢瀬経験のない凛は不思議に思う。
(!! もしかして、あの大きな荷物はお布団なのかも・・・)
そんなことはある筈ないのだが、そうと思い込むと一直線の茶髪娘。布団を広げたところでとっちめてやろうと考え、近づこうと足を踏み出したところ、
パキッ
小枝を踏んでしまった。
(あ、やばい!)
この音に二人が気付かない訳がない。
そ~っと覗くと、二人ともこちらを見ていた。
(まずい!)
そう思った凛はとっさにごまかそうとするのだが、
「ホ~、ホケキョ!」
何故か鶯の声真似をした。
当然、藤兵衛とひさ子は鶯の正体に気付く。というより、凛の『跳ねっ毛』が丸見えであった。
「ねぇ・・・ 今の、何?」
「うぐいす、だな」
藤兵衛は呆れる。今は夏で鶯がいるはずなどないのに、何故にそれなのかと考えてしまう。しかも、鳴き声は結構似ていた。
「・・・もしかしてあなた、つけられたんじゃない?」
「・・・かもしれない(汗)」
まいたと思ったがまさか振り切ってなかったとは、と藤兵衛は額を押さえる。ひさ子はふう、とため息をつくと音のした方へ近づいていった。
「な~に、してるのかな?」
こうして凛はあっさりと見つかってしまった。
「あは、あはは・・・」
笑って誤魔化そうとするが、藤兵衛は凛を連れて行くつもりはなかった。
「凛、お前・・・ 何でついてきた?」
「何でって、私は藤兵衛さんの助手でしょ? ついていくのは当たり前じゃない!」
本当はひさ子との逢瀬を阻止するためだったが、そこは伏せて仕事の話にすり替えようとする。
「あのなあ・・・ いいか、今回は城に忍び込むんだ。前回とは訳が違うんだ。お前は家で留守番してろ!」
「い・や・です!」
やはりと言うか、凛が引くことはない。すると、ひさ子が割り込んでくる。
「ねぇ、捕まると獄門はりつけのうえ、さらし首になるわよ? 上手くいったとしても、もし正体がバレたら前の生活には戻れないわ。それでも、いいの?」
「う“・・・」
そう言われると、凛はさすがに迷ってしまった。しばし考え込む。
(つまり正体がバレると、買い食いが出来なくなる・・・ それは、困る。かと言って、この女を藤兵衛さんと二人っきりにさせるのも、なんかムカつく・・・)
悩みに悩み、導き出した答えは、
(そうよ! 上手くいって、正体もバレなきゃいいじゃない! ついでに役に立つところを見せつけて、この女をぎゃふんと言わせてやればいいのよ!)
という、なんとも欲張りなものであった。
「行きます! もし連れて行かなかったら・・・ 今ここで大声出してやるわ」
「わ、わかった、わかった!」
凛が大きく息を吸い込んだので、藤兵衛は慌てて口を塞ぐ。
そして、ひさ子には
『ダメだ。こうなったら、止められない』
と、目で合図した。
ひさ子も観念した様子で、
「ま、覚悟の上ならいいわ。・・・足は引っ張らないようにね」
「そっちこそね!」
釘をさすが、凛は強気で返してくる。
(ま、こんな事になるような気がしてたのよね。丁度いいから、どんなもんか観察させてもらうわ。・・・それに、私は何も言ってないから、お梅さんの言いつけを破ったことにはならないしね)
半ば予想通りの展開、とひさ子は頭を切り替えた。
かくして藤兵衛、ひさ子、凛の三人は協力して江戸城へ忍び込むことになった。一体どうなることやら・・・ である。
つづく
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