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【長編小説】二人、江戸を翔ける! 4話目:江戸城闖入記⑧

■あらすじ
 ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・りんを助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛とうべえ。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。これは、東京がまだ江戸と呼ばれた時代の、奇想天外な物語です。

■この話の主要人物
藤兵衛とうべえ:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
りん:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
ひさ子:藤兵衛とは古い知り合いのミステリアスな美女。
庭番衆ばんしゅう:江戸城を守る忍び達。自称エリート集団。

■本文

次に、風丸かぜまるという男が前に出た。

美流陀びるだを負かすとは、なかなかやるな・・・。次はこの私、風丸がお相手しよう」

名乗るとほぼ同時に、

「とお!」

と、鎌なような武器を投げつけてきた。

瞬間、藤兵衛たちは身構える。しかし、投げた武器は藤兵衛たちを大きく外し、後ろへと飛んでいく。

「や~い、どこ投げてんのよ。下手くそ!」

凛が挑発するが、風丸は気にもしていない。

「ふ。わかってないのは、君たちの方さ。何故なら・・・」

「・・・何故なら?」

もったいぶった言い方をする風丸。流し目で見つめてくるなど、どうにもナルシスト感がある。

「そいつは戻ってくるのさ! 名付けて武運目乱ぶうめらん鎌!』

そして、自分の持ち技をあっさりとばらしてしまう。これには、はなという女性がずっこけていた。

「「「え?」」」

三人が振り返ると、確かに投げた武器が軌道を変えてこちらに向かってきている。

「う、うわ!」

凛は大いに驚いたが、藤兵衛にとっては不意打ちではない攻撃をかわすことなど手軽なものだ。
凛を抱きかかえて回避すると同時に、鉄傘てっさんを鎌にわずかに当てて軌道を少しずらした。

「は~はっはっは! どうだ、驚いたか? 賊徒ども!」

風丸は得意げに笑っていたが、

グサッ!

「うぅっ!」

軌道を変えた鎌が風丸の額に見事的中し、あえなく風丸はノックダウンとなった。
これを見てひさ子と凛、それにお華がずっこける。

「か、風丸! しっかりしろ!」

「うう・・・ そ、宗助そうすけ・・・。俺が死んだら、しし丸には立派に戦ったと伝えてくれ」

駆けつけた頭領格の男、宗助に風丸は死に際の言葉を語っていたが、命に別状は無さそうに見えた。

「・・・余裕があるな」

「あれなら、大丈夫そうね」

藤兵衛とひさ子も、小芝居をするぐらいなら大丈夫だろうと見ていた。
風丸はほとんど自滅であったが、宗助には許せなかったのか、

「おのれ・・・ よくも美流陀に続き、風丸まで・・・。 こうなったら、ビヨぞう! お前が行けえ!」

と、別の者に号令をかける。
ビヨ蔵と呼ばれたとても人間には見えない生物が、藤兵衛たちの前に立ちはだかった。

このビヨ蔵は見れば見るほど不思議な生物であった。二頭身体型で上半分は毛が『まりも』のような塊状で、その中に目玉が二つ浮かび、そして毛の上方にはまげが生えている。

更に、下半分はふんどし一丁姿で、驚くことに体が浮いていたのだ。いや、よく見ると蓑虫のように糸にぶら下がっているのだが、その糸がどこから垂れているのかがわからなかった。

姿形からして感じるとてつもないオーラに、『こいつは前の二人とは明らかに違う』と三人は身構えた。

「な、なに、こいつ!」

「これは・・・ 人なのか!?」

「出来るわね・・・ 油断しちゃだめよ」

そうしてビヨ蔵と三人は暫く向かい合っていたのだが、やがてビヨ蔵は小刻みに震え出す。

「え・・・ な、なに?」

震えは徐々に大きくなり、ある所でピタリと止む。すると、

ビヨ~ン

と突然、ビヨ蔵は二体に分裂したのだった!

「え、ええ! 増えたあ!?」

「これは・・・ 高等忍術『分け身の術』ね」

「高等忍術!? ってことはこいつか、ひさ子!? お前が言ってた面倒な奴ってのは!」

「多分そうね。ありとあらゆる忍術を使いこなす天才忍者って噂は、本当だったようね」

凛は驚き、藤兵衛とひさ子は真面目な声でひそひそ話し合っている。

「わーはっはっは。さすがは、ビヨ蔵だ! このまま、あいつらをのしてしまえ!」

ビヨ蔵の後ろでは、宗助が気分良さそうに高笑いをしていた。
ひさ子と藤兵衛は構えを取り、凛は藤兵衛の後ろに隠れる。

(((・・・・・・)))

しかし、いくら待っても向こうからの攻撃がこなかった。そしてその間にも、ビヨ蔵は二から四、四から八へと倍々に増えていく。だが、増えるだけで一向に仕掛けてこない。

やがて、ひさ子はある推量を口にする。

「・・・どうやらこいつは。こちらからけしかけない限り、何もしてこないようね」

「え? じゃあどう対処するんだ?」

藤兵衛の問いに、ひさ子は簡潔に答えた。

「ずばり、『無視』ね」

「「・・・・・・(ホントかよ?)」」

藤兵衛と凛は、ひさ子を疑惑の目で見つめる。すると、

「な、なんで攻撃しないのよ! まさか、ビヨ蔵はカウンター専門なんだってこと、見破られたっていうの!?」

と、お華が種明かしをしたのだった。

「当たりなんだ・・・ 何だかなあ」

ここまでくると、このお庭番衆は微妙な集団であることに藤兵衛たちも気付き始める。

「こうなったら、私が出るわ」

続いてお華が懐に手を入れるが、どうせ似たり寄ったりでしょ、と考えているとまともな攻撃を仕掛けてきた。

「いけ! 飛閃刀ひせんとう!」

小さな刃を時間差を付け、次々と投げつけてくる。

「う、うわっ!」

だが、藤兵衛が前に出て、向かってくる刃を鉄傘で次々と弾き飛ばす。
すると、そのうちの一本がお華の足を掠めた。

「あ、痛っ!」

「だ、大丈夫か、お華!」

お華が足を押さえると、宗助が駆け寄って過剰に心配し始める。

「! 血が! 血が出てるじゃないか、お華!」

「平気。こんなのかすり傷よ、宗助」

「駄目だ! すぐに消毒しないと! ・・・お前にもしもの事があったら、俺は、俺は・・・」

「そ、宗助・・・♡」

そうして二人は、藤兵衛たちの前でイチャイチャし始めたのだった。

「・・・何なのよ、あれ(汗)」

目の前の光景に、凛は呆れてしまっていた。

空を見つめ笑っている男、鎌が額に刺さったままぐったりしている男、未だ増え続けている正体不明の物体、そしてそんな中でイチャイチャしている馬鹿っぷる・・・ 確かに違う意味で『凄忍集団』であろう。

「う~ん。こんな奴らだったのね。なんか、頭痛くなってきた(これは確かに、どうにかしたくなるわね・・・)」

「新手のお笑い集団だな」

ひさ子は額に手を当てて悩み、藤兵衛はポツリと呟く。
こうして三人組は特段何をしたわけでもないが、『お庭番衆』をなんなく撃退し先に進むのであった。

つづく

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