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追い風〜ものがたりと写真と声〜

「ついでに朝メシ買い行こう」

10歳年下の彼はそう言って、玄関脇に置いてある私の自転車にまたがり視線を投げてくる。

私はそっと彼の後ろに乗った。

「重たい」と言われたので、強めに背中を叩いた。彼はカラカラと笑う。

夕闇から夜へ空が表情を変えてゆく。

彼の白いTシャツに小さなシミを見つける。私はそっと指先でその部分に触れる。

星が少しずつ姿を現してきた。

5年前の今頃も、こんな似たような事をしていたのを思い出す。出来たら今度は、違う道へ行きたい、そう思った。

ゆらゆらと不安定に進む自転車の上で、私は彼の上昇する体温を感じ煙草の残り香をゆっくりと吸い込む。

そして突然、彼は止まった。

彼は橋の上から河を見て言った。

「ここから見る朝日と夕陽が綺麗なんだよ。明日の朝、メシ食べる前に見にこよう。」

不思議な光り方をする夜の河の流れに惹きつけられた。

5年前にここを一人で見ていたことを思い出す。

そして隣にいる彼の光っている瞳を見つめる。

私は彼のシミのある部分をそっと触り、背中に頬を寄せ「うん」と答える。

自転車は追い風で前へ自然と再び進んだ。

ただただ、純粋に真っ直ぐ求めるものへ進みたい。余計な事を考えず進めば良いんじゃないか。そんな思いで書いたものがたりです。

橋の上って突風が凄いイメージがあるのですが、追い風が来ると結構楽しい。浮かんでいるような気分にもなる。そしてどんなに汚くて臭いが酷い河であっても、太陽は美しく照らしてくれます。希望って、そうゆうものなんだと思います。



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