君と僕の誕生日
ずっと好きだったあの娘に彼氏ができた
照れながら、らしくないでしょと笑いながら、僕だけに打ち明けてくれた
高校の同級生だったあいつと
お互い地元で就職したから、しょっちゅう一緒に飲んでいたのと
つかの間の帰省と、久々の故郷に、まだ僕自身感覚が戻っていなくて
昨日朝まで飲んだ高校時代の奴らの中にあいつはいたっけな
二日酔いのぼやけた頭に、君のしゃべる事実だけが氷のようにしみてゆく
浦島太郎はきっとこんな気持ちだったのかもしれない
いっそのこと時代が流れすぎて、追いつけないくらいのほうがよかった
それからの君の話は溶けた氷のようにつかめなくて、頭の中をつたう
それからの僕は途端に君の眼をみることができなくなった
自分の器の小ささをひどく軽蔑した
君と別れて家に帰り、父の雪かきを手伝った
子供の頃より父のスピードに追い付けるようになっていた
僕が速くなっただけではなく、父が遅くなっていることに気づいた
さらってもさらっても積もっていく雪が
憎らしくてスコップでザクザクと
わざとらしい音をたてて削っていく
何の痛みすらしないのだろうが
まるで雪を殺しているみたいだ
スコップを刃に見立てて乱暴に振るう
壊れていくのは一体なんだ
雪の白さと君の笑顔が重なって
雪を刻み続けることに小さな興奮を覚えていた
どんどん積もるくせに、何にも汚れないまま巨大な山になっていく
水でも差せば巨大な氷になるだけだから
砕くのに必死な自分の背中を想像して、滑稽だと一人笑った
さっき君とお昼を食べに寄ったカフェ こんな田舎に不釣り合いな洒落た店
昼の日差しが雪に反射して照らされた
僕はまだ生まれたばかりの弱弱しい雪を手にかけることで
君が僕を選ばなかったこと
僕が君に何もしていなかったこと
猟奇的に雪をちぎっていくことで
正当化できると信じている
あれきり君とは会わず、仕事が待つ縁もゆかりもない場所へ帰った
君の1月の誕生日 おめでとうとだけ言葉を送り
君のありがとうにも返事をせず、故郷を後にした
君の誕生日は、僕の父の誕生日と同じだ
僕の誕生日は、君の亡くなったお母さんと同じだ
この偶然にあの頃僕らははしゃいで、僕は運命を信じた
僕がこの町から出て行ったあと、君が何を考えていたかはわからないけれど
お互いあの頃のまま体だけ大きくなったわけではないけど
お互い誕生日を 忘れられない
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